映画『先生の白い嘘』の衝撃をどう受け止めるか──奈緒主演で7月5日に劇場公開
男女間の性の格差を描いた鳥飼茜の漫画「先生の白い嘘」が奈緒主演で実写映画化され、7月5日に劇場公開される。衝撃作の見どころをライターのSYOがレビューする。 【写真を見る】風間俊介、猪狩蒼弥、三吉彩花が好演!
奈緒主演で、漫画『先生の白い噓』が実写映画化
男女の性の不平等や性被害をテーマに据えたヒット漫画「先生の白い嘘」(著:鳥飼茜)が、奈緒主演で実写映画化された。『弱虫ペダル』等で知られる三木康一郎監督が映像化を熱望し、約7年かけて完成させたという。 高校教師の美鈴(奈緒)はある日、友人の美奈子(三吉彩花)から恋人の早藤(風間俊介)と婚約したと告げられる。だが、早藤は過去に美鈴を深く傷つける悪事をしでかしており、反省も後悔もなく再び彼女を呼び出し、蹂躙する。感情に整理がつかないまま早藤から性搾取を受け続ける美鈴だったが、生徒の新妻(猪狩蒼弥)から性に関する悩みを相談されたことで、自身を取り巻く性の不平等に向き合わざるを得なくなっていく。 原作をちらりとでも読んだことがあったり、概要を把握している方はご存知のことかと思うが、「先生の白い嘘」は凄まじい漫画だ。映画の公式サイトに掲載された鳥飼のこのテーマを描いたきっかけを綴った文章が象徴するように、性被害のおぞましさ(そして身近さ)、男女の性差が作ってしまう絶望的な不平等を叩きつけるような描写とストーリーが展開していく。人によっては「心が破壊される」くらいのショックを受ける作品であり、その実写映画化に携わった面々の覚悟は相当なものだっただろう。 「原作漫画『先生の白い嘘』と出会った時の衝撃を今でも覚えています。埋もれてしまっていた誰かの叫びが自分の耳を突き抜けていくような感覚でした。そして、その誰かの一人である”美鈴"として、この作品と共に苦しみ、この作品と共に闘うことを心に誓い出演をお受けいたしました」(奈緒)、「今まで演じさせて頂いた役柄、全てに愛を持ってきましたが、今回『先生の白い嘘』のお話を頂いた時、初めて早藤という役を愛せないかもしれないと思いました」(風間)、「描写のト書きを書くのがこれほど辛かった作品はありません」(脚本:安達奈緒子)──といった各々の生々しい言葉が、実写映画版の公式サイトには収められている。 本作はR15+(15歳未満は観覧禁止)だが、試写に参加した一個人の感想を述べるとするならば──この数字やそこから生まれるイメージではカバーできないほど、“くらう”、つまり「心が破壊される」作品であると言わざるを得ない。 性被害を主題としている以上、フラッシュバックを起こしてしまう人もいるだろう。先のコメント群の通り、作り手たちもぬるい方法論に終始するような真似はしていない。 目を背けたくなるようなシーンに意を決して臨んだ奈緒をはじめ、各々が肉体と魂をすり減らしながら挑んだであろうこと、そうまでして「届けたい」という気概が、画面の端々から痛いほどに伝わってくる。それが故に、我々観客も相応の心構えで臨むことを強いられるだろう。 立場の違いなどから性行為を強要される理不尽さと、肉体的な被害・心理的なトラウマ、そして美鈴/早藤たちが表象する性被害/性加害は、劇中だけの“作り物”ではなく、実社会にも存在するという残酷な現実──観客は『先生の白い嘘』が描く“壮絶”を通して──“体感”することになる。本作は劇映画では初となる3面ライブスクリーン上映も決定しているが、この思い切った施策にも同様の狙いがあるのかもしれない。 観る人を選ぶ作品であり、気軽に薦めることは躊躇われるのは事実だ。ただ一つ確かに言えるのは、「性被害/性加害」や「男女の性の不平等」に対する認識に変化をもたらすきっかけになるということ。その意義はあまりにも深く、重い。