【解説】鳥島近海の地震 観測された「T波」とは?海底火山との関連も?
■津波は発生したのに…波形に“大きな違い”
今月5日に津波注意報が発表された際に観測された地震波形では、波形が上下に大きく振れています。一方、今月9日に津波注意報が発表された時の地震波形は、ほぼ振れず、大きな動きがありません。両日とも津波が観測されていますが、地震波形をみると大きな違いがあったのです。通常、地震がおきると初期微動「P波」と主要な動き「S波」がみられます。気象庁によりますと、今回の揺れは、このP波とS波がはっきり判別できないということです。地震の波形がはっきりせず、地震の規模が大きくないものの津波が発生したことから、気象庁は「普通の地震による揺れではない可能性」があるとみています。
■第三の波“T波”とは?
鳥島近海では今月9日午前4時から午前6時半ごろにかけて、小さな揺れが断続的に発生していました。当時、小笠原諸島・父島で観測された地震波では、上下に大きく振れている箇所が14箇所あることが確認されています。これらの波形は、「P波」でも「S波」でも無い“第三の波”「Tフェーズ」「T波」だと考えられています。
■T波は海底噴火と関連する?
「T波」とは地震波が海底面で“音波”に変換されて海中を伝わったものです。「海底の浅い所で発生した地震」や「海底火山の噴火」に伴う“音波”として伝わる振動であり、TはP波・S波に続く「第三の波」という意味から付けられました。地震の専門家で環境防災総合政策研究機構の草野富二雄さんによりますと、T波がみられるのは海底噴火が観測される時の特徴のひとつだということです。 また、政府の地震調査委員会の平田直委員長は、揺れと津波をおこした要因はわからず、今後、研究と分析が必要とした上で、「今回の津波発生は地下のマグマ活動が関連している可能性もある」と話しています。
■鳥島近海 過去にはマグマ活動によって津波発生
今回の地震活動域は、鳥島から南西に約100キロ離れた場所です。鳥島の北側には須美寿カルデラ(須美寿島)、南側には孀婦岩と、鳥島も含めて海底火山が続く場所になっています。須美寿カルデラの近くでは、2015年5月にマグニチュード5.9という比較的規模の小さな地震によって津波が発生しました。分析した結果、マグマが関与した地殻変動によって津波が発生した可能性があるとされています。このように、須美寿カルデラでは10年に1回程度、マグマ活動による津波が発生することが知られています。 今回の地震活動域である鳥島の南側には孀婦岩があり、こちらも海底火山です。須美寿カルデラでおきた過去の事例から、今回もマグマが関与した可能性があると考えられています。 海上保安庁は津波発生後の今月11日に上空から観測をおこないましたが、孀婦岩の周辺の海面には特段大きな変化はありませんでした。今月9日の津波発生以降、鳥島近海での地震活動は低下していますが、比較的規模の小さな地震でも津波が発生していることから、当分の間は注意が必要です。