優れたリーダーは、メンバーにやりがいを感じさせることができる
ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツは、自分たちの名を冠した財団を運営するに当たり、20年以上にわたり、一人ひとりが自分の課題をしっかり行わなければ、プロジェクトを成功に導けないと、メンバーに周知徹底すべく意識的に努力を払ってきた。 この財団の成功の理由を尋ねられた時、同財団の初代共同議長兼プレジデントを務めたパティ・ストーンシファーは、思いがけない返答をした。一枚の白紙が成功の秘訣だと述べたのである。 2000年代前半に筆者がゲイツ財団で仕事をしていた頃、プロジェクトを開始する際にはしばしば、ビルとメリンダ、ストーンシファー、そしてその周囲のすべての人たちがシンプルな問いを発し、問いに対する答えを次々と白紙に何枚にも渡って書き込んでいった。そこに記される答えは、学術的研究や議論、ほかの業種の人たちとの対話、または途上国の不便な村で暮らす人々との対話から生まれたものだった。 このような学びの文化を持つことの恩恵は、日々、新しい経験ができることだけに留まらない。それにより、働く人たちが目に見える形で仕事への充実感を抱くことも可能にしているのだ。 カーギルのCEOを長く務めたグレッグ・ペイジの例も参考になる。ペイジは2011年に極めて異例な約束をし、それを通じて同社のメンバーに対して、自社の本当の仕事が何かを再確認させた。 カーギルは100年以上にわたり、穀物のロジスティックスに関して高い評価を得て、それにより健全な収益を得てきた会社だ。しかし、2011年に「アフリカの角」の地域が深刻な飢饉に見舞われた時、ペイジは自社の仕事の成果の一部を無償で提供することを決めた。飢餓に苦しむ人々に、重量にして約1万トン(2200万ポンド)のコメを提供したのである。 この決定について尋ねられた時、ペイジはあっさりと言った。「これが私たちの仕事なのです」。ペイジとしては、コメの提供を通じて、正しいことを行うだけでなく、自社で働く人たちに対して、自分たちのミッションを理解させたいと考えたのだ。カーギルのミッションとは、書類上で数字を動かしたり、港から港へ船を移動させたりするだけでなく、人々の食を支えることだと伝えたかったのである。 ペイジはこの決定について、積極的に話題にしている。自社のメンバーに誇りを持たせ、自分たちの仕事のパーパスに対して好ましい感情を抱かせたいと考えたのだ。 同様に、ユニリーバのCEO、ポール・ポールマンも、その莫大な利益を生み出している巨大企業を原点に回帰させた。ユニリーバは、アックス・ボディスプレーに始まり、ベン&ジェリーズのアイスクリームに至るまで、それこそありとあらゆるものを販売している。しかし、ポールマンは、自社で働くメンバーに、そしてそれ以外のすべての人たちに、ユニリーバが単にこれらの商品を販売して利益を得ることにとどまらない、より高いパーパスを持っていることを知ってほしかった。 そこで、ポールマンは歴史を振り返り、ユニリーバの出発点に立ち戻った。その出発点とは、固形のハンドソープである。2014年に、世界の一部の最貧国の衛生・保健環境を改善するために、手洗い習慣の普及を目指すプログラムを支援した際、ポールマンはこう語った──ユニリーバは、自社の商品にお金を払う人たちだけに奉仕しているわけではない、と。ユニリーバは、ある意味で「世界最大のNGO」だと述べたのである。 本稿でここまで紹介してきたリーダーたちに共通するのは、人類全体に恩恵をもたらすことが自社のミッションであるという強い信念と、自社のメンバー全員に同じ発想を持たせたいという決意を抱いていたことだ。 この点は、企業幹部の最も重要な役割と言っても過言でないだろう。インターンから取締役まで、働く人たちは誰もが日々の職業生活にやりがいを求めている。より若手のマネジャーは、しばしば目の前の課題や成果以外のことに目を向ける余裕がないかもしれない。しかし、幹部クラスになれば、常に全体像を見なくてはならない。そのうえで、メンバーもその全体を理解できるようにするために手助けする必要がある。 以上の事例からも明らかなように、企業幹部がそれを実践する方法はいくつもある。筆者の入室ゲートの事例のように、メンバーの帰属意識を損ないかねない問題に目を向け、解決可能なポイントを探してもよい。あるいは、ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツが行ったように、メンバーが日々学習し、その効果を目に見えるようにしてもよい。また、ペイジやポールマンのように、チームのメンバーに対して、自分たちの仕事の、さらにはその会社や組織の原点であるパーパスを再確認させてもよい。 これらのアプローチはいずれも、長期にわたって小規模に続けてもよいが、時には、一度に集中的に実行しなくてはならない場合もある。人々にやりがいとパーパスを抱かせることは容易でない。しかし、うまくいけば、チームや組織のパフォーマンスが目を見張るほど向上する可能性がある。 そして、その出発点は、すべての人に、自分がミッションの追求に参加していると感じさせることだ。もしチームのメンバーがそのように感じていれば、大きな挑戦を行い、大きな問題を解決することは、常に手の届く場所にあるだろう。 "To Solve Big Problems, Make Everyone Feel Included in Your Mission," HBR.org, November 21, 2023.
ラジブ J. シャー