福島県会津若松市の県立博物館 不登校生の学びの場に 会津木綿の原料育て工芸体験
福島県会津若松市の県立博物館による、不登校の小中学生の「学びの場」づくりが成果を挙げ、注目を集めている。敷地内に園芸スペースを設け、市内の適応指導教室に開放。会津木綿の原料の綿や藍などを育て、23日には収穫した植物を使った工芸体験などを予定している。「子どもたちに学校以外の社会との接点をつくりたい」との学芸員の思いから始まった活動は、地域の芸術家や農家の協力を得て「開かれた博物館」の姿として実を結びつつある。 きっかけは、ある学芸員の発案だった。市の適応指導教室「ひまわり」の子どもらが常設展や企画展に来る姿を良く目にしていた。教室は博物館から約200メートルと近く、不登校や学校を休みがちな児童生徒20人ほどが過ごしている。「博物館との関わりをもっと深められないか」と市教委に連携を持ちかけた。 会津地方の農家の協力を得て栽培に使う土や植物の苗などを準備。6月に児童生徒を迎えて綿や藍、エゴマ、野菜などを植えた。以降も月1、2回のペースで一緒に手入れをしてきた。活動には、賛同する県内の芸術家や会津大短期大学部幼児教育・福祉学科の教員、猪苗代町の農業団体なども加わり、専門知識やノウハウを伝えている。
2023(令和5)年施行の改正博物館法に伴い、博物館には教育・文化の域を超え、まちづくりや福祉など幅広い分野との連携や社会貢献に努める役割が加わった。一方、不登校など複雑な事情を抱える子どもの成長を巡っては、学校や家庭以外に社会と触れ合う「第3の居場所」をいかに設けるかが問われている。 県立博物館の事業は双方の課題と向き合い、子どもに寄り添う動きとしてこども家庭庁の「NPO等と連携したこどもの居場所づくり支援モデル事業」に採択された。活動を知り、視察に訪れた岡山県立美術館の関係者は「複雑な事情を持つ子どもに合わせ、柔軟にプログラムを組んでいた。先例として参考にしたい」と注目している。 「ひまわり」で子どもたちをサポートしている市教育相談員の国井加奈子さんは「活動の場が限られる子どもにとって、博物館での体験は社会とかかわる貴重な時間だ」と感謝する。大人との対話が苦手だった子が回を重ねるにつれ、学芸員や協力者とのやりとりを楽しんだり、希望する活動を提案したりするなどの変化を感じているという。
博物館は次年度以降の継続や他団体との連携も視野に入れている。活動の成果や課題を記録集などにまとめ、広く発信する予定だ。担当する主任学芸員の塚本麻衣子さん(43)は「将来は博物館を子どもたちだけでも気軽に足を運べる空間にしたい」と願っている。