「名前を捨てるのなんて大したことじゃない」…なりすましでカナダに渡った華人達が語る「興味深い文化」
「ノイジー」と呼ばれるワケ
ジムの書類上の名前は先に紹介したように姓が周、名が家谷だが、名の最後の漢字1文字である谷(クック)をカナダでは姓として使っている。 中国の姓である周を捨てることは、自分のアイデンティティを失ったような気分にならないのか。 「みんなからはずっとジム、ジムって呼ばれているしね、単なる名前だよ。所詮は名前。それで僕が変わるわけじゃない。大した問題じゃないよ。バカだの間抜けだのと呼ばれなきゃ、何だっていいさ」 では、「ノイジー」(うるさい)と呼ばれるようになったのはなぜか。 「そんなのわかるだろう? あれだけ騒々しいんだから」 店の郵便受けの鍵当番も担う古い友人、ロイドがやってきて説明する。 「あんなにうるさい男はいないよ。あれは作戦だったんだな。電話をかけてきて、開口一番『ノイジーだよ』(うるさいよ)と宣言するようなものだから」 ロイドの隣に座っている元農家で今は引退した身のクラレンスが、ジムから電話がかかってきたときの反応を身振りで見せる。 「朝から大声でしゃべるから、こっちは自分の声が聞こえないほどよ」 フィンランド系の高齢女性、ベルナの説明がすべてを物語っている。 『「よそ者」の中国人移民が「町長候補」に推薦! …差別に晒されながらも模範市民として生きるある中国系カナダ人の半生』へ続く
関 卓中(映像作家)/斎藤 栄一郎(翻訳家・ジャーナリスト)