単純ミス「またか」 デブリ取り出し中断 あきれる福島県民 続く失態、東電に厳しい視線
「何をしているんだ」「ちゃんと準備してきたのか」。東京電力が福島第1原発2号機の溶融核燃料(デブリ)試験的取り出しを準備作業の段階で中断した22日、福島県民からは装置の取り付け順を誤る「単純ミス」へのあきれ、批判が噴出した。デブリ採取は廃炉の最難関とされ、当初予定から既に3年遅れている。ようやくたどり着いたスタート地点でのつまずきに「またか」の声も。同様の失態が続けば廃炉がさらに遅れかねず、再発防止を誓う東電には厳しい視線が注がれている。 「二度と、このようなことは許されない」。22日夕、東電の担当者は福島市で報道陣に対し、初歩的ミスで中断に至った事態を自戒を込めて説明した。 「デブリの取り出しは廃炉計画の中でも重要な作業なのに…。人為的ミスは県民の信頼を損なう」。原発事故に伴い福島第1原発のある双葉町を離れ、いわき市に避難している大橋庸一さん(83)は理解に苦しんだ。同町細谷地区にあった自宅を除染土壌を保管する中間貯蔵施設用地に提供するなど県土の復興に協力してきた。「小さなミスを放置すれば、やがて大きなミスにつながる」とし、徹底した改善策を東電に求めた。
双葉町で暮らす無職国分信一さん(74)は着手直前でのトラブルに「取り出し作業の安全性は今後、担保されるのか」と不安を口にした。被災地で生活する身として、廃炉の行方を注視している。取り出し後にはデブリの保管や原発構外への運搬が控える。「住民に不安を抱かせない対応をお願いしたい」と注文した。 約40年かかるとされる廃炉の成否は、将来を担う子育て世代にも無関係ではない。6カ月の長女を育てる郡山市の主婦横井李奈さん(27)は作業が現状の想定よりも長引かないかが気がかりだ。「廃炉作業が万全の体制の下で行われているのか。もう一度、確かめてほしい」と話す。 廃炉の行方は県内の産業の盛衰にも影響する。原発事故で川俣町山木屋から同町鶴沢に避難し、2年前に山木屋に農場を開いた農業大内国広さん(69)は「こういう出来事は消費者に不安を与える」と懸念する。安全・安心な農産物を生産している自負があるだけに「廃炉の先行きが見通せない現状は歯がゆい。東電は着実に作業を進めてほしい」と訴えた。会津若松市・芦ノ牧温泉の大川荘の社長渡辺幸嗣さん(46)は芦ノ牧温泉観光協会副会長を務め、市の観光の盛り上げに奮闘している。「原発の状況は今後の県内のにぎわいに関わる。廃炉が問題なく進むことが最も大切」と強調した。