藤井道人、映画『正体』は「流星との1番最初の作品になるはずだった」 森本慎太郎&山田孝之のキャスティング秘話も語る
横浜流星が主演を務める映画「正体」が11月29日(金)に公開される。本記事では、2023年から2024年にわたり行われた撮影の現場の様子と、本作で監督を務めた藤井道人のインタビューをたっぷりとお届けする。 【写真】接見室での緊迫したシーンに臨む横浜流星 ■横浜流星が、5つの顔を持つ指名手配犯に挑む映画「正体」 本作は、「余命10年」(2022年)が興行収入30億円を超える社会現象を巻き起こし、最新作「青春18×2 君へと続く道」が日本のみならず現在アジア各国で大ヒットを記録中の藤井監督が手掛ける、極上のサスペンスエンタテイメント。 日本中を震撼させた殺人事件の容疑者として逮捕され死刑判決を受けたが脱走し潜伏を続ける主人公・鏑木慶一(横浜)。鏑木と日本各地で出会った沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)、そして彼を追う刑事・又貫(山田孝之)。又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。間一髪の逃走を繰り返す343日間。彼の正体、そして鏑木の計画が徐々に明らかとなっていく。 ■緊張感が漂う接見室のシーンに密着 冬の寒さが続く2月某日の朝、接見室のセットが組まれたスタジオに横浜流星と森本慎太郎が「おはようございます」と登場。森本は席に着くと、藤井監督の言葉に耳を傾けうなずきながら本番に臨み、向かい合って座る鏑木(横浜)に明るく振る舞いながらも、目に涙を浮かべる繊細なシーンを、何度も何度も丁寧に演じきった。 そんな自分を信じてくれている和也を、やさしい眼差しで見つめる鏑木を演じる横浜の目にも薄っすらと涙が。鏑木と和也の場面は、多くは語らないがお互いへの気持ちがあふれるような時間だった。最初は予定していなかったというこのシーン。森本の演技に手応えを感じた藤井監督が追加したという。 シーンが変わると、鏑木の前に現れたのは、彼を追う刑事・又貫役を務める山田孝之。カメラは接見室の椅子に座っているところから回るにもかかわらず、山田は接見室の扉を開けるところから、リハーサルも本番も役へと入り込んでいる様子だった。また、横浜は壁の方向を向き一点を見つめ、鏑木という役への集中力を高めているように感じた。 いざ2人が接見室で向き合うと、又貫の質問に逃亡生活で得た初めての感情や生活を言葉を詰まらせながら語る鏑木の姿がカメラに映る。セリフとセリフの間や、机と椅子の距離の細かい部分まで一ミリたりとも妥協をしない藤井監督のこだわりが垣間見える場面となっていた。 ■映画『正体』は「流星との1番最初の作品になるはずだった」 ――横浜さんとは、何度もタッグを組まれていますね。 実はこの映画が流星との1番最初の作品になるはずだったんです。 広告やミュージックビデオなどを、それまでは一緒にやっていたのですが、初長編映画は「正体」がいいねって話していて。じゃあやろうっていう風になったのが4年前ぐらい前で、作品進行の流れから順番が変わってしまいましたが、「新聞記者」(Netflix)のドラマのクランクインや「ヴィレッジ」(2023年)よりも前だったんです。 ただ、本当に今撮れてよかったなと思うのは、 最終形態に近いぐらい、お互いをほとんど知り尽くしていることです。今回は死刑囚が逃亡するという話なのですが、横浜流星七変化じゃないですけれども、彼が様々な形、格好、人格を変えていろんな人に会っていくという。 なので本当に全部の流星が見れますし、その1つ1つのその精度というか、 その人間になりきる力が圧倒的にすごくなっていて、今回は楽しく撮らせてもらっています。周りが、「横浜流星すごい!」ってモニターを見てなってくれているのを見て、「知ってる知ってる!」という思いでいつも見ています(笑)。 ――横浜さん演じるベンゾーが出会う、野々村和也を演じる森本慎太郎さん、刑事の又貫征吾を演じた山田孝之さん、お二人のキャスティングの経緯ついて教えてください。 森本くんはプロデューサーチームとも相談しました。「藤井組はいつも同じ(人が出演している)よね」と言われることが多々ありまして(笑)。でもやはり、新しい俳優と出会いたいなっていう欲望はすごくあるんです。 森本くんの演技をちゃんと拝見したことがなかったのですが、その時にちょうど「だが、情熱はある」(2023年、日本テレビ系)で山里亮太さんの役を森本くんが演じていて。すごいトリッキーなんですけど、テクニックもあって、面白い俳優だなと思って声をかけました。 多分僕の演出が、森本くんが今まで正しいと思ってやってきたこととはかなり違って、最初は苦労していたと思います。もう今は和也推しのスタッフが中にもいるぐらい、人間らしくて本当にいい芝居をしてくれる俳優だなって思っています。 山田さんに関しては、僕にとっては映画人の中でとても緊張する方なんです。又貫は、鏑木という人物の正体はなんなんだっていうのを、お客さんと同じ目線で追っていて、その役はやはり自分の中で最大のリスペクトのある山田さんにお願いしたいなと。ダメ元でカフェで待ち合わせてオファーをしました。 今でも山田さんを現場で演出する時はとても緊張します。ただ、本当にかっこいいです。なので今回又貫を山田さんに演じてもらえて、1つ夢が叶ったような気持ちです。 ■最高のエンタメを作れていると思っている ――今回撮影していた接見室のシーンはかなり見ごたえがありました。たくさん森本さんや横浜さんなどとコミュニケーションをとりながら撮影を進められていましたね。 森本くんは、和也を演じるのが半年ぶりだったんです。また和也は鏑木と長い時間会っておらず、久しぶりの再会となります。なので、鏑木はなんで足を引きずっているんだろうとか、その間に鏑木がどんな辛い思いで逃げてきたんだろうとか、そこに対しての感情はもっともっとあると思うよ、などと話していました。 他にも、瞬きや、眉毛の動きなどについても丁寧に1個1個修正していきました。最後に、すごくいい芝居をしてくれてうれしかったですね。 実は、流星にだけは演出のアプローチが全く違っていて、他の方には感情の話を中心にしますが、流星にはそこはもう終わっているので、「いま横で何ミリだから、その表現じゃ伝わらないよ」など、テクニカルな話ができているんです。それができるのは流星だけです。 ――山田さんはセットに戻ってくる際に、映らない場面でも接見室のドアを開けてから、席についているのがすごく印象的でした。 山田さんは絶対そうしますね。病院のシーンなどでも、セリフからいきなり始まる時もあるんです。そういう時もやっぱり扉から入ってきてというのを何回も何回も繰り返して、自分が気持ち悪くない体制や、テンションだったりを作っています。 ――最後に、映画「正体」を楽しみにされている方々に一言お願いいたします。 1番状態が良くて脂がのっている時期に最高のエンタメを作れていると思っています。僕と流星でヒット作というものはまだなくて、「これは観た方がいいよね、すごく面白いから」と言われるようなものを作れている自信があります。