「完全に魂を持っていかれた」…劇場版『名探偵コナン』最新作メインテーマのアレンジに悶絶!『戦慄の楽譜』『ハロウィンの花嫁』での革新的変化とは?
劇場版『名探偵コナン』メインテーマ・アレンジ変遷史#2
〝コナン音楽〟に魅せられたノンフィクション作家の前川仁之氏が、劇場版アニメ『名探偵コナン』メインテーマのアレンジ変遷史を解説。前編に引き続き、後編では第12作『戦慄の楽譜』から最新作『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』までをひもといてゆく。(前後編の後編) 【画像】劇場版『名探偵コナン』最新作メインテーマのアレンジ
第12作『戦慄の楽譜(フルスコア)』は〝調性感〟を揺るがす革命的アレンジ
前編では第1作から第11作まで取り上げたが、後編では第12作以降のメインテーマのアレンジ変遷を見てゆこう。 まず最初に取り上げる第12作『戦慄の楽譜(フルスコア)』はかなりの〝問題作〟だ。音楽をテーマにした作品ゆえに、メインテーマのアレンジにも期待が高まるが、ふたを開けてみるとやっぱりすごかった。破っちゃったんですよ、前例を! 久々にプレ・イントロなしで始まる本作。イントロは定番の下降パターンと思いきや、聴いていてかすかな違和感を抱くだろう。下がってゆくベースラインのなかに、このキーのこのコード進行においてはふつう使われない音(レ♮)が入っているのだ。これを伏線として、中盤でとんでもない事態が生じる。 1コーラス目が終わったあとのこれまでとまったく異なる間奏、それに続く手数の多いアドリブも素晴らしいが、決定的なポイントはその先。ふたたびBメロにつながる直前で、心地よいアドリブラインに任せていた身が、不意に引き締まるような感じがしないだろうか? これは、いつもどおりのコード(ここではC)に戻る直前に、G7という、本来このキーにおいてはよそ者となるコード(借用和音)を使っていることから得られる効果。要するに、一瞬だけ転調しているようなもの。こんなこと、今までにはなかった! 前編で触れた〝調性感〟が初めて大きく揺るがされたのはこの瞬間だ。「これ、やっちゃってもいいの? だったら、いろいろできるじゃん!」という感じ。さあ、というわけでここからが傑作の森!
第14作『天空の難破船(ロストシップ)』、第15作『沈黙の15分(クォーター)』は まったく別の曲を経由する「入れ子方式」
第13作『漆黒の追跡者(チェイサー)』では、ジャジーな間奏から、なんとシリーズ初の転調でFマイナーからEマイナーへ! 続く第14作『天空の難破船(ロストシップ)』では、イントロが不思議な高揚感を出している。コード進行自体はいつもと同じだが、切り換えを2小節に1回にすることで、かつて西城秀樹がカバーした、ヴィレッジ・ピープルの『ヤングマン』っぽくなっているのだ。 このバージョンはすみずみまでおもしろく、間奏ではA♭メジャー(元のFマイナーに対して平行調。つまり、#や♭の数が変わらない調)に転調し、まったく異なるメロディーが奏でられる。ジョン・ウィリアムズ作曲の『E.T』のテーマを思わせる、飛翔感あふれるメロディーだ。 そこから『銀河鉄道999』のイントロ風ラインを経てAメロに戻ってくるのだが、今度は空から一気に地底に降りたかのように、ピアノの低音が担当する。このパート、Aメロとしては『コナン』史上最低音域。おすすめアレンジのひとつだ。 いい感じにバーリトゥード(なんでもあり)になってきたのがおわかりいただけるだろうか。これは音楽担当者側の都合だけではなく、物語のキーパーソンが増えるにつれ、間奏以降にかかるナレーションが多様化していったためでもあるだろう。 途中でまったく別の曲を経由する「入れ子方式」は、次の第15作『沈黙の15分(クォーター)』でさらに大胆になる。 雪山を舞台にした本作は、2コーラス目のあとに突如としてCメジャーという離れたキーへと移り、のどかなメロディーが始まるのだ。シリーズ初の3拍子で、これを聴くと私はどうしてもサザンオールスターズの『山はありし日のまま』を連想してしまう。3拍子で似ているのと、山岳遭難というテーマが一致するからだと思われる。公開は2011年4月、多くの被災者を出した東日本大震災の直後だった。
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