『西湖畔に生きる』グー・シャオガン監督 伝統と現代を追求する「山水映画」があばく人間の欲望 【Director’s Interview Vol.436】
長編映画デビュー作『春江水暖~しゅんこうすいだん』(19)がカンヌ国際映画祭の批評家週間クロージング作品に選ばれ、目利きの批評家と観客に「傑作」と評された新鋭グー・シャオガン。中国の自然を描いた「山水画」をモチーフに、独自の「山水映画」を作り出す取り組みを続けている。 監督第2作『西湖畔(せいこはん)に生きる』は、茶畑で懸命に働いていたが、突然マルチ商法にはまり豹変してしまった母親と、彼女を救い出そうとする息子の物語。自然豊かな古都の風景を描く人間ドラマが、衝撃の犯罪劇に転じてゆく「山水映画」の新境地だ。ドラマティックで激しいエンターテインメントのなかに、「伝統」と「現代」のコントラストと人間の欲望を描き込もうとしたグー監督が、作品の根底に横たわる価値観を自ら解き明かした。 『西湖畔(せいこはん)に生きる』あらすじ 杭州、西湖(せいこ)のほとり。仏教故事にインスパイアされた物語。最高峰の中国茶・龍井(ロンジン)茶の生産地で知られる西湖(せいこ)。そのほとりに暮らす母・タイホア(苔花)と息子・ムーリエン(目蓮)。母は、山の美しい茶畑で茶摘みの仕事をしていたが、あることをきっかけに茶畑を追い出され、やがて違法ビジネスの地獄に堕ちる……。
山水画と映画が出会った「山水映画」とは
Q:監督が取り組んでいる「山水映画」についてお聞かせください。そもそも、どういった経緯でこのコンセプトにたどり着いたのでしょうか。 グー:前作『春江水暖』を撮った当時、私には映画人としてのキャリアがありませんでした。映画学校で短編をたくさん撮ることもせず、いきなり長編を撮り始めたわけですから。そのときは、自分の故郷(杭州市富陽)にある「富春山居図」という古い絵巻物を題材に映画を撮りたいと考えていました。ですから山水と映画の関係を考えるより、「富春山居図」と映画の関係を考えるのが先だったんです。そのうちに、「富春山居図」に描かれた時代の山水、つまり山や川はまるで変わっていないけれど、この町には大きな変化があったのだと気づいた。それが、「伝統」と「現代」を山水映画で描くというテーマに至ったきっかけでした。 けれど、実際に「山水画と映画のあいだに密接な関係を作れるかもしれない」と考えたのは『春江水暖』を半分くらい撮ったあとのことです。そのときは「3巻の絵巻物にしよう」と考えていたのですが、今では「絵巻物は(3巻に限らず)無限にあるのではないか」と思うようになりました。ですので、現在に至るまで、山水映画はどんどんと発展しているのです。
【関連記事】
- 『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』マルグレート・オリン監督 5番目の季節を撮る理由【Director’s Interview Vol.434】
- 『画家ボナール ピエールとマルト』ヴァンサン・マケーニュ 監督のビジョンに身を捧げる【Actor’s Interview Vol.43】
- 『ぼくが生きてる、ふたつの世界』呉美保監督 自分とリンクした、出会いがもたらす心の変化【Director’s Interview Vol.432】
- 『シュリ デジタルリマスター』カン・ジェギュ監督 デビュー作のおかげで新しい挑戦への躊躇がなくなった【Director’s Interview Vol.431】
- 『ナミビアの砂漠』山中瑶子監督×河合優実 運命的に出会った二人が生み出したもの【Director’s Interview Vol.429】