廃棄リンゴを活用したサステナブルな新素材 長野発「りんごレザー」が生まれるまで
廃棄予定のリンゴの果実や皮をアップサイクルした新素材「りんごレザー(登録商標)」が、長野県飯綱町のふるさと納税の返礼品に採用されるなどして話題を呼んでいる。試行錯誤のうえ素材の開発にこぎ着けたSORENA代表取締役の伊藤優里さんに、開発の経緯と思いを聞いた。(聞き手 朝日新聞SDGs ACTION!編集部・池田美樹)
地元愛が生んだ「りんごレザー」
――伊藤さんはリンゴを使った合成皮革「りんごレザー」を開発しています。きっかけを教えてください。 「りんごレザー」は、長野県飯綱町にあるリンゴジュースやシードルを生産する工場から出る搾りかす、さらに自然災害などで市場に出せなくなった果実や皮を活用した合成皮革です。リンゴについては、現在は飯綱町産のものを100%使用して生産しています。環境に配慮した素材でありながら、従来の合成皮革に劣らぬ耐久性や耐水性を実現しています。 私がりんごレザーを作るきっかけになったのは、2021年3月に東京ビッグサイトで開催されていた「第1回国際サステナブルファッションEXPO春」。そこで展示されていた海外製のアップルレザーや他のフルーツベースのサステナブル素材を見て、こんなものが存在するのだと驚きました。 私は起業する前にフルーツを加工する会社で働いていたのですが、その時に、日本で消費されるフルーツが輸入依存であること、輸送中に傷んで廃棄せざるを得ない原料の多さに大きな課題意識を抱いていたのです。 また、2019年10月に発生した台風19号では、その被害で廃棄せざるを得なくなった大量のリンゴや、農家の皆さんの落胆を目の当たりにし、自分にできることがないだろうかと強く思っていました。 これらの問題に取り組むため、展示会で見たサステナブル素材がヒントになり、長野のリンゴを使った新たな素材の開発を決意。展示会翌月の2021年4月に会社を立ち上げました。 ――伊藤さんは「ただ利益を生むことだけを考えるのではなく、きちんと課題解決できる会社を目指す」という企業理念を掲げています。接続可能なビジネスを目指そうと思ったのはなぜですか。 私は四国生まれで九州育ちなのですが、大学進学のために長野県に来ました。以来、ずっとここで暮らし、仕事も結婚も子育てもこの土地で経験してきました。この、長野という土地への恩返しと、子どもたちにより良い未来を残したいというのが大きな動機です。 会社勤めと個人事業主を経て、自分だけで何かを成し遂げるよりも、家族や友人、そして地域全体と一緒に価値や豊かさを創出することが重要だと感じるようになりました。この思いが会社を設立し、持続可能なビジネスに取り組むきっかけとなりました。