党公認を理不尽に取り消された議員がヤクザと手を組み大逆襲…韓国で話題をさらった「不正選挙バトル」映画が面白すぎる
どこかで通じ合う2人の「外道」
また、土地開発事業に絡む政治家と事業者の癒着や不正取引は、韓国メディアでも長年取り沙汰されてきた政治の宿痾である(もちろん日本も他人事ではない)。 『対外秘』の舞台となる釜山は、韓国最大の港湾都市であり、世界的に有名な人気リゾート地として急速に開発が進んだ。近年は経済特区としても注目され、現地を訪れるたびに高層ビル建築や再開発が町のどこかで進められている印象がある。 その一方、昔ながらの文化や情景を守ろうとする地元住民の声も強く、そんな両者のせめぎ合いが独特の土地柄になっているとも言える。その開発ラッシュの黎明期を描いているとも言える本作の設定には、なんとも絶妙なリアリティがある。 ちなみに、1992年の総選挙では、釜山・海雲台地区にはヘウンのような無所属候補は実在しなかったそうだ。もちろんヤクザと共闘した記録も残っていない(少なくとも公には)。 いつしか当初の理想も思想も見失い、復讐心と権力欲に憑かれて暴走していくヘウン。一方、選挙戦の面白さにのめり込みながら、極道よりも悪辣な政治家の策謀に翻弄されるピルド。まったく正反対に見えて、どこかで通じ合う2人の「外道」のバディムービーとして観ても、本作は味わい深い。 さらに、老獪な黒幕・スンテが繰り出すマフィアばりの情報入手&口封じテク、ダイナミックな人海戦術による得票数操作工作など、多彩な不正アラカルトも大きな見どころだ。コンピュータ導入初期の時代描写も含め、いろいろ勉強になる。
戦いの意外な結末とは
ヘウン役のチョ・ジヌンは、『権力に告ぐ』(2019)では公権力の不正に立ち向かう正義漢を演じ、『最後まで行く』(2014)や『お嬢さん』(2016)では常軌を逸した悪役を悠々と演じてみせた稀代の実力派。 親しみのあるキャラクターながら「どちらに転ぶかわからない」サスペンスを滲ませる彼が主役だからこそ、本作は終始スリリングな快作となった。 また、ピルド役のキム・ムヨルは、『犯罪都市 PUNISHMENT』(2024)の殺戮マシーンのような悪役もインパクト絶大だったが、本作ではまた違った魅力のアウトローを好演。出演順としては『対外秘』のほうが先になるが、より円熟味のある芝居を見せてくれる。 二手も三手も先を読み、相手も自分も裏切りながら、血で血を洗うかのような戦いの意外な結末は、映画を観てのお楽しみ。 ただし、ラストシーンで意味ありげに映し出される建物は、日本人観客には少し説明が必要だろう。通称「青瓦台(チョンワデ)」、日本統治時代に建設され、2022年まで韓国大統領府が置かれていた歴史的建造物である。まさしくかの国における最高権力の象徴であり、その瞬間に「1992年」の物語は、我々の生きる「現代」に急接近する。 後味はやるせないが、しかしこれだけ歯に衣着せぬ政治闘争エンタテインメントを作り上げてしまう韓国映画のパワーにも感心せざるを得ない。そして、これぐらい踏み込んだ作品を、日本の映画界にも今こそ世に問うてほしいと痛感させるラストシーンでもある。 『対外秘』 11月15日(金)シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開 監督:イ・ウォンテ/出演:チョ・ジヌン、イ・ソンミン、キム・ムヨル 2023年/韓国/116分/原題:(英題:THE DEVIL'S DEAL) コピーライト: (C) 2023 PLUS M ENTERTAINMENT AND TWIN FILM/B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED. 公式サイト: taigaihi.jp 公式X: https://x.com/kinofilmsJP
岡本 敦史