党公認を理不尽に取り消された議員がヤクザと手を組み大逆襲…韓国で話題をさらった「不正選挙バトル」映画が面白すぎる
激動の時代の記憶を生々しく
監督のイ・ウォンテは、本作はあくまでフィクションであり、「特定の人物や政党、史実を描いたわけではない」と明言する。この作品で語りたかったのは、権力への欲望に憑かれた人間の普遍的な物語であり、そんな政治家や権力者の姿は残念ながら現在も全世界で見当たるはずだ、という。つまり本作は、全人類に向けられた寓話なのだ。 それでも『対外秘』は強烈な生々しさで観客を鷲掴みにする。 もちろん日本人にとっては、先日の自民党不正議員非公認騒動を思い出させるからだが、現実には「非公認」自体が茶番であり、国民の無力化・奴隷化の完了間近にある巨大政党にとってはもはや秘密工作すら必要ない、という日本の実情を知らしめる結果となった。むしろ逆ギレのあげくアウトローとタッグを組み、独立愚連隊的に出鱈目な選挙戦を仕掛けるヘウンぐらいのガッツを見せてほしかったぐらいである。 話が逸れたが、本作にリアリティを与えているのが「1992年」「釜山」という舞台設定だ。1992年は、韓国で実際に総選挙が3月に、第14代大統領選挙が12月に行われ、32年ぶりの「文民政権」が誕生した記念すべき年である。その4年前の1988年、長きにわたって続いた軍事政権の終焉後に行われた念願の大統領選では、民主化運動の先陣で闘った金泳三(キム・ヨンサム)と金大中(キム・デジュン)が両者激突して票割れを起こし、結局は軍事政権時代の中核メンバーだった盧泰愚(ノ・テウ)が第13代大統領に選ばれるという結果を招いた。 その雪辱を晴らすべく、金泳三は1990年に盧泰愚、同じく軍人出身の金鍾泌(キム・ジョンピル)と組み、三党合同の「民主自由党」を結成。2年後の選挙では圧倒的な得票差で金大中らを引き離し、ついには第14代大統領の座に就いた。 その後、金泳三は軍内部の強力な秘密組織「ハナ会」解体を断行し、軍人出身者の排除を推し進めるなど、なかなかアクロバティックな政策を展開。のちの朴槿恵(パク・クネ)政権、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権にも繋がる有力保守政党の源流のひとつともなったが、民自党自体は「新韓国党」と改名後、1997年に解散した。『対外秘』の冒頭で映し出される、党首と幹部たち、軍人も交えた「談合」シーンは、そんな激動の時代の記憶を観客にフラッシュバックさせたのではないか。