Appleはなぜ新しい小型「iPhone」を発売するのか?
Appleの「次の一手」とは?
高付加価値が高収益に直結しない成熟期に入ったスマートフォン市場に、一世を風靡したとはいえ一世代前のiPhone 5sの強化版ともいえるiPhone SE(仮)を投入する意味は何でしょうか。 その答えはおそらく「Apple pay」、つまりカードレス電子決済にあると考えられます。Appleの求める次のイノベーションは、すでにスマートフォンの枠から飛び出ていると考えられるのです。 カードレス電子決済は、クレジットカード決済のように市中の販売店に個人データを残す形式ではないため、クレジットカードの盗用などが多い海外では注目され、急ピッチに普及が進んでいる技術です。iPhone SE(仮)に追加されると見られるApple payは、App Storeなどで電子決済ノウハウを得たAppleが、市中の決済にも対応するべく策定した決済フォーマットです。 Apple pay機能は、iPhone 6/6s発表時に搭載され、アメリカとイギリスでは既にサービスイン。米大手銀行機関Bank of Americaとの提携を果たし新型ATMの試験運用ではAndroid Payとともに利用可能になるとしました。フランスやカナダなども順次対応していくとみられています。 さらに、アジア圏への展開として先月18日に中国でのサービスを開始すると中国の広発銀行が認めました。 Appleは、このカードレス電子決済での圧倒的な主導権を握るべく、既存のiPhone5、5sのユーザーが端末買い替え時期に差し掛かる今年に同じ使い勝手の5eを投入し、夏以降に発表されるであろうiPhone 7とともに現在のユーザーをすべてApple pay決済可能な端末のユーザーに置き換える目算ではないでしょうか。 Android payなど同じカードレス決済のライバルはすでにありますが、統一された端末を持つユーザー数で圧倒し、巨大なカード決済市場に殴りこみをかける。Appleの経営資源は現在そちらに向いているように見受けられます。 このApple payの普及には、最新鋭のCPUや大画面液晶は必要ありません。財布よりも小さく持ち運びがしやすい筐体のほうがより重要になるでしょう。先祖返りに見える4インチ液晶も、Apple payという決済を備えた新しい「財布」として捉え直すと、新しい意味が見えてくるように感じられないでしょうか。 Appleは、ipodとitunesで音楽業界の地図を一変させたように、iPhone SE(仮)とApple payで銀行業界の地図も塗り替えられるのでしょうか。その挑戦はすでに始まっているように始まっているように思えます。
■久保内信行(くぼうち・のぶゆき) タブロイド代表。デジタルやインターネット分野を中心に幅広く執筆。著書は『iPhone/iPod touch Application Guide(ソーテック社)』など多数