Appleはなぜ新しい小型「iPhone」を発売するのか?
タブレット市場の頭打ちが背景?
正直、iPhone SE(仮)のこれらの事前情報は、スペックやデザインにとくに新味がなかったため最新鋭機種を求めるマニア層からはあまり評判は良くありませんでした。予測された名称も「iPhone 5SE」だったので、2世代遅れな印象が強かったのもその理由の一つです。開発当初に出回った噂にあった“発展途上国向け低価格iPhone”という見方も、同時に値下げされると予測される「iPhone 5S」が担いそうな情勢です。それでは、iPhone SE(仮)の発売はAppleの戦略の中で何を担って開発されてきたのでしょうか。小画面を堅持した現行品のリプレースなだけでしょうか。 確かにiPhone 6シリーズは、画面の大型化にともなって“持ちにくい”、“操作しにくい”という声はありました。しかし、Appleはこれまで新しい規格を決めると現行ユーザーの声よりもコンセプトを重視してきた歴史があります。そう考えると4インチ液晶を望む消費者層だけに向かってiPhone SE(仮)を発売するだけではない思惑も感じられます。 画面を4インチという“小画面”に戻した新製品を発売する理由は他にもあると考えられます。 その背景には、大画面を搭載するタブレット型コンピュータの不振があると考えます。2010年に鳴り物入りで登場したiPadは、2014年には販売台数で明らかに失速を記録し、Appleの株価にも悪い影響を及ぼしました。この傾向は、Appleだけでなくタブレット市場すべてに共通していて、「IDC Worldwide Quarterly Tablet Tracker」レポートによると2015年10~12月期ではタブレット市場全体が前年同期比13.7%減もの落ち込みを見せているのです。iPhoneの大画面化と、MacBook Airなどの持ち運びやすいノートパソコンの間で、その存在意義を薄れさせてきた結果といえるでしょう。 タブレット業界の不振の中、明るいニュースといえばビジネス用途を強く打ち出したiPad pro販売台数が200万台を突破したことです。このiPad proの躍進は、皮肉なことに大画面化を進めてもそこには新たなフロンティアはなく、ビジネス用途でパソコンと競合するしかないという現実も示しています。 iPodからiPhoneと、デジタル機器に新たな価値を創造することで莫大な利益を手にしたAppleにとって、スマートフォン市場の飽和とタブレット市場の急激な縮小は望ましいものではないでしょう。実際、Appleの時価総額は2015年4月末の7506億ドルを頂点に、12月末には5869億ドルに急落してしまいました。 そんな新しい価値の創造に手間取るAppleの総売上のうち、iPhoneが占める割合はおよそ6割。そのスマートフォン市場の飽和は“創造的な次の一手”に欠けると株式市場からも警戒の声が上がっている状況になっています。ついに2月15日には、米アルファベット社(米Googleの持ち株会社)に時価総額で抜かれるというニュースが世界中を飛び交いました。