「江戸小紋」の図案を大学生がスマホで作成 日本文化を生成AIで守る挑戦
江戸時代に誕生し、現在も着物愛好家の間で知られている江戸小紋。小さな柄を一色で染める美しさで、国の重要無形文化財に認定されている歴史ある伝統工芸品です。近年は図案を作る職人の数が激減し、継承の難しさが指摘されています。この状況を打破したいと、新たな図案技術の開発に取り組む大学があります。 【写真】昔のイメージとは大違い? 女子高生に人気の意外な大学
無地のように見えるが、近づくと小さな模様(小紋)が浮かび上がってくる「江戸小紋」。江戸時代の大名の「裃(かみしも)」に各藩の紋を入れる形で着用され、その後、町人に着物として広まりました。 これは伝統的な江戸小紋で、人間国宝・小宮康孝(1925~2017)の手によるものです。代表的な模様である「けれんもの」の正統派で、藤の花・鷹の羽・茄子で「一富士二鷹三茄子」を示し、言葉遊びでメッセージを伝える「いわれ紋」という図案です。 伝統工芸の経営史を専門にする、文京学院大学経営学部の川越仁恵(あきえ)准教授によれば、江戸時代は断続的に「奢侈(しゃし)禁止令(徳川禁令)」が出され、そのたびに贅沢(ぜいたく)が禁じられました。 「着物も例外ではなく、派手な色や柄は禁止され、許されたのが地味な単色でした。そこで江戸小紋が一気に発展しました。絵や文字を入れても遠目には無地に見えるからです。町人の中には武士よりも豊かな生活をしている人もいて、その人たちがこぞって、おしゃれな模様の入った江戸小紋を注文しました。江戸には日本中から腕利きの職人が集まり、花や野菜やさまざまな文字、さらには謎掛けや、メッセージ性のある模様などが入った着物が次々と誕生したのです」 ところが、近年はこの江戸小紋の柄をデザインする「図案(ずあん)家」が激減し、新柄がほとんど生まれなくなっています。その理由は図案の難しさにあります。 「江戸小紋は『型染め』という製法で作られます。『図案家』が柄をデザインし、『型彫師』が伊勢型紙という紙に彫り、型紙を生地にのせて、上から染色をしていきます。ただし、無地の布に柄として表現するデザインは難しく、新しい図案の制作には1年かかります。それだけコストもかかるので、業者も図案を簡単に発注できなくなりました。その結果、図案家が減り、新作も出にくくなります。江戸小紋が注目されにくくなり、買う人が減る、という悪循環に陥っています」 そこで川越准教授は2022年から、江戸小紋の図案作りの工程を効率化する技術の研究に、ゼミ生たちと一緒に取り組んでいます。