「何やっているの!」27歳で介護に直面し、認知症の父に大声で怒りをぶつけた後悔 ハリー杉山が介護情報を発信する訳
もちろん日々、介護をしていると、もどかしさを感じることも少なくありません。何度も同じことを言われると「さっきも教えたのに…」と感じる場合もあるはずです。そういうときは、一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせることが大事。知識を持っているかどうかで、接し方は大きく変わると思います。こうした知識を得たのは、最近「ユマニチュード」というケア技法について学んだからです。これは、認知症を正しく学び、認知症と向き合う人に優しく接するコミュニケーション技術です。話し方や信頼関係の築き方など、10年前にこの技法を知っていれば、僕の人生はもっといいほうに変わっていただろうと思います。
── ご自身で介護を経験したからこそ、コミュニケーション技術の大切さを感じたのですね。 ハリーさん:介護している最中は無我夢中で全力でした。当時できることは、すべてやり遂げた思いはあります。晩年の父は忘れていることが多かったけれど、ときどき僕のことを思い出してくれました。親子としてふれ合う時間はかけがえがないもので、これまでより深い話ができた喜びもあります。だからこそ、なおさら当時を振り返って「あのときこうしておいたらよかったな」と、思うことはあります。
いま、福岡市の介護に関するテレビ番組に出演しています。福岡市には、認知症に関する取り組みや知見を発信する「認知症フレンドリーセンター」という施設があります。認知症と向き合う方にとって、世界がどのように見えているかをARで体験することができる施設です。当時、父は歩くとき、足を前に踏み出すのをためらうことがあって不思議に思っていたんです。ARで体験してみると、足元に黒い穴が開いているように見えました。そんな状況では「足を前に出すのが怖かっただろうな」と、父の気持ちが理解できました。
■「認知症は怖いものではない」自然な現象として向き合う ── たしかに知識の差で、受け止め方がまったく異なると思います。 ハリーさん:10代、20代のうちから、フランクに認知症や介護について話し合える場があればよかったと感じます。いざその局面に立ったとき、動揺はしても心の準備ができていたと思うんです。現在、福岡市の小学生たちは、学校で認知症に関する知識を得る機会があるそうです。これは非常にいい取り組みだと感じます。