今も女性悩ます「妊娠アウティング」 NHK朝ドラ「虎に翼」主人公も被害 SNSでも話題
本人の同意なく第三者に秘密を暴露する「アウティング」。日本では性的指向や性自認の情報を漏らす意味で使われることが多いが、勝手に職場で妊娠を言いふらされる「妊娠アウティング」に悩まされる女性もいる。「妊娠初期だから言わないでほしい」「大切な人には自分で伝えたい」と考える当事者がいる中、「おめでたいことだから」と広めてしまう人も。識者は「妊娠の事実はデリケートな個人情報。本人の意思を尊重して、慎重に扱うべきだ」と警鐘を鳴らす。 【写真】ジェンダー問題に詳しい大山知康弁護士 「職場の違うグループの人にも妊娠してること広まってて、ぇ!?私何も言ってないけど!?ってなった」「勝手に職場で妊娠の噂されてて嫌だったなー」。SNSでは、このような投稿が見受けられる。5月23日放送のNHK連続テレビ小説「虎に翼」でも、主人公が第三者によって妊娠をばらされるシーンがあり、「妊娠ばらすとか完全アウト」「本人以外から妊娠の事を知らせるのもだめだし」と話題になった。 「マタニティーハラスメントの概念を議論する中で、これまで『妊娠のアウティング』は意識されていなかった」と話すのは、「職場のハラスメント研究所」(東京)の金子雅臣代表理事。性的少数者の訴えにより、性的指向などを暴露する「アウティング」が問題であることは定着してきたものの、これまで妊婦から対応を求める声が届いていなかったことや、「妊娠=プライバシー」として考えられてこなかったことなどを原因に挙げる。厚生労働省のガイドラインでも明記はされていない。しかし、「これまでハラスメントとして意識してこなかったから、そのままで良いというわけでない」と言う。 妊娠の場合、「おめでたい」と世間話で話してしまったり、報告を受けた上司が、当事者の仕事の負担を減らすために周囲に話したりする場合があり、必ずしも悪意があるとは言えない。金子代表理事は「悪意がないからハラスメントにならないという誤解がある」と強調する。「事業主はマタハラ防止の措置義務として、当事者のプライバシーをしっかり守らなければならない。その一つに、妊娠の情報は当然入る」と語る。 職場でのトラブルを防ぐため、金子代表理事は「まず、報告を受けた上司は他者に言わなければならない場面が出た時、当事者に確認をしてほしい」と提案する。そして、管理職のマタニティーハラスメントの研修に「妊娠=プライバシー」であることを盛り込み、プライバシーの侵害になることを自覚してもらう必要があるという。上司と当事者間での意思疎通が難しい場合は、出産経験者にメンター(助言者)として間に入ってもらうことも有効という。 ジェンダー問題に詳しい大山知康弁護士にも聞いてみた。「『口外しないでほしい』と言われていた妊娠の情報を他者に伝えるのはプライバシーの侵害になる。性自認などの情報に慎重になることは理解できても、妊娠となると『おめでたいことなのに、なぜ言ってはいけないのか』という考えの人もいる。悪意のない分、より深刻な問題」と指摘する。 妊娠報告については、安定期に入るまで広めたくないなど、それぞれに「この人には、このぐらいの時期に話したい」といった考えがあるとした上で、「プライベートな情報を公にするかどうかという権利は、本人にしかないことを認識してほしい」と話す。 そして職場には「妊娠が分かった場合、できれば、このぐらいの時期に教えてほしい。その際は、上長と総務・人事の担当者のみに情報をとどめる」といったガイドラインの作成を提案する。「あくまで基準であって、本人の意思を確認しながら、過ごしやすい環境を整えてほしい。妊娠のアウティングについては、違和感を持っている女性も多いと思うので、プライバシーの問題だと気付いてほしい」と呼びかける。