地元百貨店で愛されたハイカラな味 福岡県大牟田市の「洋風かつ丼」
「変わらない味」守り続ける
「味の決め手はお醤油なんです。デパートで使われていた醤油は廃番になっていて、主人はその味を目指して試行錯誤していました」と松尾さんは振り返ります。 大牟田出身の義博さんは、高校を出て料理の道に進みました。東京で約10年間の修業を積み、地元に戻った30歳代の頃、松屋の食堂の中華部門で働きました。その後、別の店で料理長を務め、40歳代の頃に独立します。 職人肌で研究熱心だったという義博さん。レシピ再現への協力を求められると、何種類もの醤油を用意して分量を変え、何度も調整を重ねました。松尾さんや松屋の元従業員らに試食してもらい、ようやくたどり着いた”あの味”のレシピは、洋風かつ丼の普及に賛同する店に公開され、義博さんは作り方も指導しました。
洋風かつ丼には定義があります。▽白いご飯にカツを直接のせる。キャベツなどで挟まない▽とろみのあるソースをかける。市販のソースはアレンジせずに使わない▽フォークで食べる――の三つです。今ではレシピを基に、ソースをデミグラスにしたり、鶏肉を使ったり、各店が工夫を加えた多彩な味を楽しめるようになっています。 復活当初は、市内で30店近くが提供していた洋風かつ丼。コロナ禍の影響などを受けて商売をやめる店も増え、今では3分の1ほどに減ったといいます。 そんな中、彩花には「やめないで」と通ってくれる常連も多いそうで、「この味がみなさんに愛されているんだと実感します」と松尾さん。「『変わらない味ですね』という声にホッとします。主人が残してくれた味を大切に守り続けたいです」
読売新聞