朝ドラ『虎に翼』で寅子が入学した「明大女子部」は実際どんな学校だったのか? 良妻賢母と女子の社会進出の矛盾
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では、いよいよ主人公・猪爪寅子が明律大学の女子部に入学した。しかし、女子が法学を学ぶことに対して、男子学生や世間の目は冷たい。今回は、モデルである三淵嘉子さんが学んだ明治大学専門部女子部が誕生した背景と掲げた理想について紐解く。 ■新時代を見据えた先駆的な思想 『虎に翼』で、猪爪家に下宿する書生・佐田優三(演:仲野太賀)が通っているのが、明律大学の夜間部である。佐田のモデルである和田芳夫さんは、当時武藤家に下宿しており、勤労学生として明治大学の夜間部で法律を学んでいた。 そもそも、明治大学の前身である明治法律学校は1881に開校し、近代日本の法学教育の先駆的教育機関のひとつだった。その後1903年の専門学校令により、「明治大学」と改称した上で法学部、政学部、文学部、商学部を設置。各学部に本科と専門科があった。その後、1921年に二部法科が設置されている。 明治大学専門部女子部は、法科と商科に分かれる3年制の学校として昭和4年(1929)に開校。明治大学学長である横田秀雄氏、明治大学法学部教授で弁護士の松本重敬氏、そしてドラマでも寅子に女子部入学への道を示した穂高重親のモデルである穂積重遠氏の肝いりで進められたプロジェクトで、女子高等教育に新たな道を拓く第一歩となった。 開校式において、横田氏は女子部創立の目的として「女子のために高等教育を施し、学問でその才能を発揮できる場をつくること」、「男尊女卑の旧習を打破し、女子の人格を尊重して法律上、そして社会的な地位を改善すること」などというような、当時の世情からすれば極めて先駆的な内容の目標を掲げている。 一方で、このような言葉も述べている。一部を引用しよう。「又女子は家政を整理し社会に活動する夫を援(たす)けて後顧(こうこ)の憂(うれい)なからしめ、又家庭に於て専ら子女訓育の任に当り、所謂良妻賢母たるを期すべきは勿論でありますが、是は浅薄なる学識を以てしては到底能(よ)くすることができないのであります。故に真に良妻たり賢母たるの実を全うするが為にも亦高等の教育が必要である。斯(こ)う考へましたことがその一つであります」 女子の高等教育の必要性を説き、法曹界への進出を見据えて女子が法学を学べる場をつくる一方で、やはり根底には「女子としてあるべき姿=良妻賢母」の概念があるというこの時代だからこその矛盾が感じられる。 学校が女子に学問の門戸を開いたとはいえ、「できるだけ良い相手に嫁いで良妻賢母となること」が女子の幸せとされた時代、学問ひいては女子の社会進出を目指す学生たちへの視線は決して温かいものではなかった。いよいよその“地獄”に足を踏み入れた主人公・寅子がその壁にどのように立ち向かっていくのかが楽しみである。 <参考> ●明治大学史資料センター「三淵嘉子(みぶちよしこ)―NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)の主人公のモデルとなった女子部出身の裁判官―(法曹編)」 ●神野潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)
歴史人編集部