「性差分析」の視点で「男性更年期っぽい夫が病院に行ってくれません。どうすればいいですか?」というありがちな悩みを見ると、とっても意外な解決が?
「フェムテック」の流れから一歩進んだ「ジェンダード・イノベーション」
ウーマンズが企画する「ジェンダード・イノベーションEXPO」はBtoBに特化したヘルスケア展示会「健康博覧会」とのタイアップイベントで、本年で2回目の開催です。22年までは「フェムテック・ゾーン」として運営していました。 「フェムテック元年の2020年前後から、興味を示す企業は年々増えていて、日本ではフェムテックという言葉が生理・妊娠・セクシャルウェルネスといった、いわゆるSRHR*の領域と強く結びついて根を下ろしました。フェムテックは消費者にはわかりやすいキーワードですが、本来、女性特有の健康課題はもっと幅広い。だからこそ私たちはSRHR領域にとどまらず、女性の健康課題全般を訴求できるイベントにしたかった。また、市場を拡大していくためにはBtoB企業に商機を提供して参入してもらう必要があり、フェムテック=SRHR領域の印象が強いままではいずれ規模に限界がくるとも考えました。そこで、上位概念であるジェンダード・イノベーションの提唱をスタートしました」 *SRHR/Sexual and Reproductive Health and Rights(性と生殖に関する健康と権利) 21年までは「フェムテックは弊社とは関係ないです」と、フェムテックのトレンドを遠巻きに見る企業も多かったそうですが、22年の「ジェンダード・イノベーション」以降はSRHR領域以外の女性の健康課題や、男性の健康課題への取り組みへも焦点が広がりました。よりよい製品が生まれる潮流ができた手ごたえがあるとのこと。 「フェムテック・ゾーンを開催した22年当時は、社内での事業化や起業を目的に情報収集に来場される若年女性の姿が目立ちました。23年はミドル以上の男性、女性、つまり事業の決定権者がぐんと増え、特に男性来場者の増加には目を見張りました」 事業に興味があってもフェムテックに男性が入場しては失礼かもと立ち入れなかった、でもジェンダード・イノベーションの視点ならば、SRHR領域以外の女性の健康課題や、男性の健康課題も対象になるので「入りやすい」という声も聞こえてきたそうです。 「中には、自分ではあのゾーンに立ち入れないからと、女性に依頼して情報収集をしてもらっていた男性もいました。そうした方々がご自身で来場しやすくなったため、出展企業からは『熱意の質が変わった』と聞きました。この、男性がアクセスしやすい名称というのも性差分析ですよね」 イベント名の変遷は、ひいては男性視点でフェムテックを見るという体験でもあったそう。 「同じ商品のパッケージでも、男性向け、女性向けでコミュニケーションを変更することでより届きやすくなる実例もあります。青にすれば男性向きという話ではなく、男性が視認したり関心を向けやすい什器設計もあり、そうした支援を行うBtoB企業もあります。そうした性差が心理面でも『ある』と気づくことがまず大事だと痛感しました」 その意味では、タイトルの「男性が病院に行ってくれない」問題も少しだけ回答が出そうです。 男性ホルモン、テストステロンが持つ働きとして男性は生まれながらに一国一城の主であり、医師という権威者に親しみを持ちにくいのだそう。性差の視点で言えば「男性では自発的に病院には行ってくれないものだ」と理解納得して、「この日時で予約を取りました、行ってくれないと私の顔がつぶれるから、頼むから行ってくれ」と、「頼まれたから仕方なく行く」ステージに変更するのが正解なのだと男性更年期のお医者様が言っていました。 「究極的には個々に向けたパーソナライズアイテムを提供できる世の中というのが、男女すべての健康課題を救い上げるための理想です。しかし、パーソナライズはコストも技術開発力もハードルがあまりにも高い。それは無理でも、少なくとも、『薬の効きが男女で違う、なぜなら無意識のうちに男性を基準に作っていたからだ』というようなことはなくなっていったほうがいいですよね。パーソナライズ化する手前で、まずはそうした男女の性差へ着目して商品を作り分けるというのはとても建設的な転機だと考えています」
オトナサローネ編集部 井一美穂