「神騎乗? 僕のレースにはないですね」川田将雅が“当たり前”を繰り返すワケ「勝つことが彼女(リバティアイランド)の仕事で、導くのが僕の仕事」
華麗な勝利レースの数々は傍から見れば“神騎乗”というべきものばかり。だが、当の本人はあっさりと否定する。リーディングジョッキーとなってもベストレースは「思いつかない」というが、理路整然と話す言葉の端々には、あまりにも緻密で正確無比な勝利への極意が表れていた。 発売中のNumber1107号「神騎乗伝説」に掲載の[トップ騎手インタビュー]「川田将雅は当たり前を繰り返す」より、内容を一部抜粋してお届けします。 【写真】リバティアイランド“驚異の末脚”と若き武豊が導いたシャダイカグラにアーモンドアイ…名牝たちの華麗なる走りを見比べる。
「神騎乗」はひとつもない?
「テーマが『神騎乗』と聞いて、取材をお断りしようかと思っていました」と、川田将雅は微笑む。冗談めかした口調ではあるが、本当に、自分はこの企画に適していないと思っているようだ。 「世間のみなさんの印象に残っている僕の『神騎乗』というのはひとつもないと思います。みなさんが『神騎乗』と仰るのは、見るからに派手なレースだと思うのですが、僕の場合、派手なレースはほぼない。僕が勝ったレースで派手だったのは、馬の能力が圧倒的だったときだけですから」 派手なレースが少ないのはなぜなのか。 「僕は緻密だからだと思います。レースのなかで用意周到にいろいろなことをやって、一般の方にはわかりやすくない組み立てをしてますので」 そう話す彼に以前、自身のベストレースはどれかと問うと、「思いつかないです」と即答した。一生懸命走っている馬を勝たせるのが自分の仕事で、自分が勝たせたとは考えないからだという。勝ったのは自分ではなく馬なのだ、と。だから彼はガッツポーズをしない。自分に“神騎乗”はないと本心から思っているのだ。 「いわゆる『神騎乗』に当てはまるレースは、GIよりむしろ普段の条件戦に多くあります。ジョッキー目線で、『あの人上手く乗ったなあ』とか『よくここからこの競馬を組み立てたな』と思うことも。でも、僕のレースにはないですね。当たり前のことをしているだけですから」
勝つことが彼女の仕事で、そこに導くのが僕の仕事
本人はそう言うが、第三者から見た「川田将雅の神騎乗」はいくらでもある。 新しい順に見ていくと、まずは昨年、リバティアイランドで勝った桜花賞。単勝1.6倍の圧倒的1番人気の同馬は道中後方を進み、3、4コーナー中間の勝負所でも先頭から10馬身以上離されていた。管理調教師の中内田充正が「ヒヤヒヤを通り越して、心臓が止まっていました」と振り返るほど絶望的に見えた。それでも川田は慌てることなく同馬を馬群の外に誘導し、直線で前をまとめて差し切った。 「これは先ほどお話しした、馬の能力が圧倒的だったレースのひとつです。許されている未来が勝つことだけで、負けていい馬ではない。勝つことが彼女の仕事で、そこに導くのが僕の仕事だということです」 とはいえ、あれだけ大きく離されて、焦ったり、ドキドキした局面はなかったのか。 「かけらもないです。しょうがないんですよ。もともと前向きすぎて、気持ちが溢れて進みすぎる馬だったので、オークスを見据えてもっと穏やかに走れるよう教えながら日々を重ねてきました。そうしたら彼女がこちらの想定より早く対応できて、道中ゆっくり走ってくれた結果の位置取りですから。無理に急かさなかったのは、学んだことを実践してくれてる彼女に、矛盾を与えたくなかったので」 初騎乗のスターズオンアースで制した一昨年の桜花賞も鮮やかだった。
(「NumberPREMIER Ex」島田明宏 = 文)
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