「厄介で心躍る」。80代両親の「家じまい」を手伝った60代娘が、さまざまな困難を通して得たものとは?
高齢の親が「家じまい」を決断。その先に待ち受けているものは?
親が高齢になり、実家がその身体機能や認知機能に合わなくなったらどうするか。もちろん、同居するなり近隣に住むなどして生活をサポートするという対処法もあるとは思いますが、もう一つの選択肢として「家じまい」が頭をよぎる人も多いのではないでしょうか? 実家を売却し、親にはバリアフリーのマンションや高齢者施設に移り住んでもらう。言ってしまえばそれだけのことかもしれませんが、実際はそれほど単純ではなく、税金や相続の問題もついてきますし、親のプライドや土地へのこだわりも絡んできて、意外と骨の折れる作業のようです。 ちなみに、英国生活情報誌『ミスター・パートナー』の編集長で、英国文化に関するエッセイでも知られる井形慶子さんも家じまいの大変さを経験した一人。井形さんは87歳の父親と85歳の母親が決断した家じまいを、かなりの割合でサポートしたそうで、マンション購入、資金作り、家財整理、遺言書作り、実家の売却といった一連の作業を、近著『最後は住みたい町に暮らす 80代両親の家じまいと人生整理』に事細かく綴っています。 果たして井形さんはどのような困難に直面し、どのような気持ちで乗り越えていったのか? 今回はその一部をご紹介したいと思います!
足りない資金は、身内からもらうのではなく借りるのがベスト!?
まずは多くの人が気になるであろうお金の問題から。名義人が先に亡くなって相続税が発生するのを避けるため、マンションは父親より長く生きる可能性の高い母親の名義にし、母親と井形さんとで共同購入することになりますが、そこから問題が次々と発生していきました。 「母の持ち金を確認すると突然ハシゴを外された。まったく足らないのだ。わずかな現金も定額預金にしているから下ろせないという。通帳の預金をかき集めてもマンション価格の半分にも満たない。私が一部出すくらいでは買えないことが判明した。実家売却のお金が入ってくるとしても、ずっと先だ。あてにはできない」 足りない分を父親に出してもらうことになりますが、単純に渡す形にすると贈与税がかかってしまいます。そこで借金の形を取ることになりますが、井形さんはそこにも落とし穴がないかと、細かく確認しながら事を進めるのでした。 「たとえば、働いていない母は、うん千万もの大金をどうやって父に返済するのか。金利は付けるべきか、それは何パーセントが妥当なのか。また、父が死んだらこの借金はどうなるのか。母はマンションに住み続けられるのかなど、考え始めたらあとからあとから疑問が湧いてくる」