サッカー代理人は必要? 鎌田去就でも注目…プレミアを例に見る存在の価値&影響力【現地発コラム】
クラブと代理人抜きの交渉を成功させた稀有な例
開いて間もない今夏の移籍市場では、鎌田大地のクリスタル・パレス入りが秒読みと言われている。期待される新日本人プレミアリーガーの誕生は、昨夏に移籍したラツィオでの契約延長交渉決裂の産物だ。 【一覧リスト】「言葉を失った」 森保ジャパンが「世界13位」“ドイツ超え”ランキング 当人は、「自分は単年契約だけを求めていて、お金は十分もらっていたので何も要求はしなかった。そこが上手く噛み合わなかった。代理人がどうチームに話しているかわからないですけど、僕は単年契約だけを望んでいた」と、6月上旬の日本代表合宿中に決裂の裏側に触れている。巷で、代理人の存在意義が問われても無理のないコメントだ。 3年ほど前になるが、プレミアリーグには、大物選手が代理人抜きでリーグ史上最高額となる高年俸での新契約に漕ぎ着けた例もある。マンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネだ。 ベルギー代表MFは、クラブ側の第1弾オファーを蹴り、出来高制の報酬ではなく基本給に増額分の多い新年俸と、念願だったUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝に向けた補強継続の確約をフロントに求めた。そして半年後、実父と祖国の弁護士事務所の協力を得ながら、文字通りの“直接交渉”を成功裏に終わらせた。 では、ほかの選手も右へ倣えが妥当なのかというと、事はそれほど単純ではない。 仲介人不要の交渉は、確かに金銭面では理想的だったかもしれない。高額になることで知られる代理人報酬の支払いも不要なのだ。リーグがまとめた資料によれば、昨季プレミアで全20クラブが代理人に支払った金額は合計4億900万ポンド(約820億円)に上る。最高額は、チェルシーの7500万ポンド(約150億円)。同じく西ロンドンを本拠地とする、フルハムやブレントフォードの移籍金支出よりも多い金額が、仲介人たちに支払われた計算になる。 だからといって、どの選手にとっても代理人抜きの交渉が理想的な手段になるわけではない。むしろ、「シティのデ・ブライネ」にとっては有効な手段だったと言えなくもない。 そもそもデ・ブライネには、その前年にマネーロンダリングなどの容疑で逮捕された長年の代理人と袂を分かっていたという特殊な事情がある。加えて、ピッチ上で最も影響力の大きな主軸である事実は、自他ともに認めるところだったはず。自らの指示に沿って父親らがまとめてくれた分析データにしても、念のための物理的証拠でしかない。クラブ側も、世界最高級の“アシストマシン”とも言うべき当時29歳を手放すつもりなどなく、必要な待遇改善を行う資金力も備えていた。 これが交渉でゴネれば30歳になる前の売却をクラブに検討されかねない選手だと、その道の“プロ”が味方にいない交渉の席で苦戦を強いられたことだろう。ビジネス色が強まる今日のサッカー界は、選手の大半が子供の頃からサッカー一筋であり続ける一方で、クラブの経営陣には「契約締結」に関する経験と知識が豊富な人材が増える環境でもある。 特に若い選手などは、契約書特有の文言にめげずしっかりと目を通すだけでも一苦労だろう。そのうえで、自らの権利や責任、不履行があった場合の成り行きを把握しなければならない。前述のデ・ブライネにしても、弁護士2名が法的事項を細部にわたってチェックしてくれている。しかも、英国で言えば料金が1時間500ポンド(約10万円)を超えるクラスの弁護士に違いない。