「ふるさと住民票」は今 12自治体で取り組み多様
地元を離れて暮らす人や、地域を応援したい人が登録する、ふるさと住民票。関係人口や移住につなげようと全国12自治体が制度を導入するが、「ふるさと住民」の中には「登録して終わり」になっている人も少なくない。「ふるさと住民」の存在は地域活性化にどう生きるのか──。実際に住民登録した人に話を聞いた。
広報誌楽しみに
「出身者じゃないから場違いかと思ったが、懇親会場が近かったから行ってみた」 大阪府在住で、府内で煎餅店を営む西渕昇さん(84)、真佐子さん(81)夫妻は、2020年8月から鳥取県日野町の「ふるさと住民」だ。23年4月、関西に住む同町出身者らで構成する懇親会「ひの郷会」が大阪城で花見会を開くと知り、2人で参加した。 花見会には町職員も参加し、町産のジビエ(野生鳥獣の肉)など特産品の試食もした。昇さんは「町民との関わりができ、現地を訪れてみたいと思うようになった」と話す。 徳島県と岡山県出身の西渕夫妻は日野町にゆかりはない。同町が実施する、家庭で飾らなくなったひな人形を活用する「福よせ雛(びな)プロジェクト」を新聞で知り、長女の人形を寄付したのが登録のきっかけだ。「最初は担当者に誘われ、登録だけなら無料だからと応じただけだった」(昇さん)が、毎月届く広報紙を読んで、町に愛着が湧いたという。 「今は亡き娘の思い出(人形)を生かしてもらっている土地でもあり、町を知るうちに応援したくなった」(昇さん)ことから、23年には会費制の「ひの郷会」にも加入した。同会事務局の同町企画政策課の担当者は「会員数が減っていたが、ふるさと住民が新たな担い手になった」と手応えを語る。
熱量の維持課題
「ふるさと住民票」が提言されてから8月で9年がたった。制度の事務局を務めるシンクタンク「構想日本」は「(自治体の)担当者が数年で異動するため、導入当初の熱量をいかに維持していくかも課題だ」と指摘する。 「ふるさと住民」との関係強化を狙い積極的に交流する自治体もある。農業体験やツアーなどで地域を訪れる機会を提供した事例や、町の知名度向上を目指すワークショップを大都市で開いた事例がある。 構想日本は、漠然と関係人口を増やす目標を掲げるのではなく、「自分の町がどんな困り事を抱え、何をするために人を呼び込みたいのか、狙いを明確にして制度設計するのが大事だ」という。 <ことば> ふるさと住民票 地域を応援したい人を対象に自治体が発行する“第二の住民票”。地域外に出た出身者やふるさと納税の寄付者、通勤・通学で地域に足を運ぶ人など、その土地に住んでいない人が対象。広報紙の送付や町づくりへの参画、公共施設を住民価格で利用できるなどの取り組みを通して、関係人口と自治体とのつながりを強める狙い。2024年8月時点で全国12自治体が導入、7000人超(3月時点)が登録する。 <取材後記> 「地元を出て家庭を持ったから、息子は親が育った故郷を知らん」。昇さんが寂しそうに語った。自分の出身地には「ふるさと住民票」はない。「故郷ってのはええもんだから、忘れないで」と地元を出た人を大切にする制度に思えて、感銘を受けたという。 能登半島地震の取材でも、避難先で進学した子どもが故郷を忘れて育つことを寂しく思う農家がいた。能登に導入自治体はないが、被災者の「二地域居住」も議論される中、ニーズはあるはずだ。 能登に残り復興に奮闘する人がいる半面、後ろめたさを抱えながら地域外に避難せざるを得なかった人もいるだろう。そんなとき、故郷と自分をつなぐ、応援の思いを形にできる「ふるさと住民票」は心の支えにもなるのではないだろうか。 (島津爽穂)
日本農業新聞