強引にもみえた欧米の「EV100%化」を望んだのはメーカーでもユーザーでもない! いまEV促進が停滞しているのは政治的要因だった
ボルボも2030年EV100%化の目標を撤回!
EVシフトが踊り場にある。2024年は、そんな表現をネット記事で見かけることが増えた。こうした状況を振り返って見ると、まず大きなインパクトがあったのが、ドイツのメルセデス・ベンツのEV戦略軌道修正だ。 【写真】製品化されたらまさに産業革命!? 全固体電池ってなんだ? 同社は2024年2月22日に実施した2023年12月期の決算発表の場で、「新車販売EV100%の期限を設けない」と説明した。これまでは、「市場環境が整えば、2020年代中に新車販売でEV100%」という目標を掲げてきたが、これを事実上、撤回した形だ。 また、アメリカのフォードは2024年8月、3列シートのフルサイズSUVにおけるEVの開発自体を中止すると発表した。2027年の市場導入を想定していた。代わって、ハイブリッド車の開発投資を強化する。 そしてスウェーデンのボルボは2024年9月に、これまで掲げてきた2030年までに新車販売100%EV化という目標を撤回している。EVの開発と販売は継続するものの、プラグインハイブリッド車やハイブリッド車についてもEVと並行して開発投資を続ける。 このように、欧米で2020年代に入ってから相次いで宣言された2030年EV100%の実現は難しくなったといえよう。 結果的に、日本の自動車メーカーなどでつくる業界団体、日本自動車工業会が主張する「マルチパスウェイ」が世界の潮流になってきている。国や地域によって、社会状況には大きな差があり、それは欧州域内や50州それぞれの州政府の政治的な独自性が強いアメリカでも同じことであろう。
政治的背景によりEV市場の先行きは不透明
では、なぜEVはいま、踊り場になってしまったのか。 背景にあるのは、過度なESG投資からの揺り戻しだ。2010年代中ごろまで、EVはまだ特殊なクルマという認識をもつ人がグローバルで少なくなかった。テスラも「モデルS」「モデルY」を生産していることであり、いわゆるアーリーアダプターを対象としたビジネスに過ぎなかった。 それが、2010年代後半になり、SDGs(国連持続可能な達成目標)、COP21でのパリ協定、さらに欧州連合の執務機関である欧州委員会が掲げた欧州グリーンディールなどによって、ESG投資の大波がグローバル市場を襲った。ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく、環境、社会性、ガバナンスを考慮した投資を指す。 こうしたグローバルな政治と経済の動きに、米中が対立し、狭間に欧州がいるといった構図となった。そうした対立構図はいまも維持されているものの、ESG投資マネーはいち早く冷え込んだ。さらに、中国経済の低迷、トランプ第二次政権の発足、欧州での与党が少数派になるといった状況となり、結果的にEV市場が先行き不透明になったといえる。 こうして見てきたように、メルセデス・ベンツ、フォード、そしてボルボなど、欧米メーカー各社がEV戦略を軌道修正したのは、技術的な要件やユーザーやディーラーからの声ではなく、政治的な背景が色濃い。
桃田健史