「オーラリー」の成功を支える「憂鬱で不安」な気持ち パリでの大舞台の裏側【2024-25年秋冬メンズコレまとめ】
決して派手なデザインではない分、ルックごとに異なるストーリーと、キャラクターを想像させるスタイリングと演出も秀逸だ。ニットウエアをバラクラバのように頭に巻くスタイルは、氷点下のパリの街中で見たパリジャンのスタイルから踏襲したという。マフラーを無造作に巻き、アウターのポケットからは手袋がはみ出ている。バッグブランド「アエタ(AETA)」とのコラボレーションバッグは口が開いたままで、マフラーやシューズが覗く。ショー直前に思い付いて取り入れたという首からぶら下げる社員証には、モデルの写真入りという細かな演出。仕事帰りにクリーニング屋に寄った女性が手に持つのは、着用しているマスキュリンなスーツセットアップとは対照的な、女性らしい真っ白なロングドレスだ。「仕事とプライベートで異なる洋服をまとうという、一人の人が持つ多面的なキャラクター」を表現する意図があった。終盤には、パーティーの“帰り道”という想像をかき立てる、イヴニングウエアがそろった。ハリのあるチェック柄のスーツセットアップに、体を包み込むオーバーサイズのミニマルなコートと、ウールのスーツ生地を使ったコルセット仕様のジャンプスーツで、対となる男女のルックを披露してショーは閉幕した。個々の背景にあるキャラクターとストーリーを想像しながら見ていると、あっという間に終わってしまった。
シンプルな服で世界と戦うために
シンプルでベーシックなブランドのショーは、コレクションが単調に見えてしまうことも少なくない。しかし、日常のあらゆるシーンに適応するリアルクローズにストーリー性を持たせた「オーラリー」のコレクションは、「もっと見たい」と思わせてくれた。フィナーレに登場した岩井デザイナーは、安堵した表情で、ゲストからの拍手喝采に深々とお辞儀した。岩井デザイナーの「憂鬱で不安」な気持ちは、彼が服を作り続ける限り、きっとこれからも解消されることはないだろう。ただ、そのミリ単位でこだわる性格と人柄が、「オーラリー」を世界の舞台へと押し上げたのも事実である。最高のかたちでパリでの初のショーを終えて、日本への“帰り道”ではきっと心地いい気のゆるみを感じられるはずだ。