WBSS決勝に挑むドネアが井上尚弥と史上最大の世代抗争宣言「私の世代が壁になる」
3日前に公開練習をした際の井上の「世代交代の引導を渡す」とのメッセージを伝える。 ドネアは不快な顔をしない。 「悪いコメントじゃない。自分の強さを証明することは、どの年代にも必要。そう宣言することも大切だろう。だが、彼の世代があれば私の世代がある。私の世代が若い世代の壁になる。その壁を彼が超えるのか、壊していくのか。その戦いにお互いが挑むわけだが、私は世代の壁をトレーニングでより強固にしている」 10歳差。この試合は「世代抗争だ」とドネアは言うのである。 「20代と同じトレーニングをして、スピードとパワーは20代からのものを維持。そこに経験が上乗せされている」 だから、例え、この試合に残酷な結末が待ち受けていたとしても引退する気持ちはない。 「負けたら引退? ノーだ。ボクシングを愛している。トップの力がないと実感したのならば、キャリアを終わらせるが、そういうものは実感していない。90歳になったとき、“あと1年やっていれば”と、たらればを考えたくない。だから力がある限り全力でやる。それを可能にする家族のサポートもある。引退という気持ちはない」 世代抗争の壁になる自信が、そう言わせた。 公開スパーでは、シャドー、ミット打ちを1ラウンドずつ披露した。 「まだ続けた方がいいのか?」 そう聞いてからリングを降りたが、攻守のバランス、重心の位置は、さすがで、あらゆる角度からジャブ、ストレート、アッパー、そして、伝家の宝刀の左フックと多彩なパンチを父のミットに打ち込んでみせた。ガードは高く隙はない。スピードは若干足りないかもしれないが、強弱をつけ、力を込めたパンチには威力があった。 キャップとマスク姿で“プチ変装”して後ろの方から動きを見守った真吾トレーナーは警戒を強めた。 「今日は全力でやっていないと思ったが、パンチは重たそう。強そう。左だけでなく右も強そう。すべてのパンチを警戒しないといけない。尚とドネアなんで判定にはならないかなと思います。(会見から話を聞いていたが) 人間的にも紳士。お互いが認め合い、気持ちよく、楽しんで戦えるのかな。いい試合になるのかな」 大橋会長は、会見中、真横の席を用意され、その顔色を特等席でチェックできた。 「近くで見ると体調は顔色でわかる。苦しい落とし方をしていない。体、顔つき、まだ余裕がある。絶好調であることは間違いない。尚弥も絶好調、凄い試合にはなる」 そして、こう続けた。 「覚悟を決め腹をくくってきているな。サムライの雰囲気を感じた。パンチも強い。ベテランになってくると、スピードはなくなるが、年齢と経験と共に瞬間的なカウンターの精度が上がってくる。そこが怖いところ。お互いに左フックが強いから、判定は考えにくいね。パンチが乗る距離がお互いに一緒。スリリングな試合になるのは間違いない」 きっと勝負は一撃で終わる。 伝説の人がプライドを守るのか。それとも尚弥が新時代の到来を世界へ告げるのか。史上最大の世代抗争のゴングは、7日後、さいたまスーパーアリーナに鳴らされる。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)