テーラリングのエキスパートに訊く、スーツの生地の選び方と考慮すべき点
ウーステッドウールかフランネルか? スーパー110sかスーパー180sか? オケージョンに最適なスーツ生地を選ぶためのヒント。 【写真を見る】5人のハリウッドセレブのスタイルから見る5種類の生地
スーツの肩のフィット感や、ダブルブレストジャケットのボタンの数について深く考えるタイプの人であれば、ほかに考慮すべきディテールというのは無限大にある。たとえば、スーツを構成する要素のひとつで、それなくしてはそもそも始まらないものが生地だ。生地はあらゆるスーツを物理的に構成する要素であるだけでなく、その個性の多くを決定づける。つまり、これについて知っておくべきことは非常に多いのである。 世の中にはありとあらゆる生地が存在し、どの生地を選ぶかでスーツの見た目だけでなく着心地も決まってくる。ある生地はダンディッシュなノンシャランスを振り撒き(シアサッカー、コーデュロイなど)、ある生地はより重厚な幹部レベルのスーツに適している(たとえばスーパー180sウーステッドウールなど)。 また、高温多湿の気候に適した生地(リネン、トロピカルウールなど)もあれば、冬の荒れ模様の日でも暖かく過ごせる生地(ツイード、フランネルなど)もある。それぞれに独特の風合いがあり、耐久性から価格まで独自の長所と短所がある。ここでは、あなたが最も出会う可能性の高い生地と、それぞれをあなたのワードローブに取り入れる方法を紹介しよう。 ■ウーステッドウール 最も一般的かつ万能な生地であり、毎日の着こなしにも取り入れやすいものだ。「ウーステッド」とは、この生地を織るのに使われる梳毛糸のことで、長めの繊維でできているために滑らかな肌触りとなる。基本的に、がっしりしたウールのセーターとは異なるものだと考えてほしい。 ウーステッドウールには数え切れないほどのスタイル、ウェイト、織り方があるだけでなく、ポリエステルからカシミア、モヘア、シルクなどとの混紡といったバリエーションも存在する。また、ウーステッドウールは通常「スーパー」表記(スーパー100s、スーパー120s、スーパー150sなど)でランク付けされ、糸の細さに応じて数字が上がっていく。 ■フランネル メンズウェアを代表する生地のひとつで、起毛と呼ばれる独特のモコモコとした質感が肌触りをよりソフトにする。この生地の独特な風合いは秋冬に最適だが、摩擦に弱く、一般的にウーステッドウールよりも耐久性に劣る。 ■リネン リネンはほかのどのテキスタイルよりも古くから人々に愛用されており、3万年前から現在に至るまで独特の魅力を保っている。軽量で通気性および吸湿発散性に優れているため夏のスーツには欠かせないが、リネンの主な欠点はシワになりやすいことだ。 ■コットン ウールよりも軽く、リネンよりも安価なコットンは、暑い天候下での通気性のよさと、多様な色とスタイルで珍重されている。ツイルが一般的だが、シアサッカー、マドラス、シャンブレー、コーデュロイなど、ほかのコットン素材も充実したラインナップに含まれる。 ■ツイード 英国発祥のざっくりとした風合いの織りで、茶、グレー、グリーンなどのアースカラーに染めるのが一般的だ。大学教授や古風なゴルファーのイメージが強いが、ツイードは驚くほど汎用性が高く、スポーツコートと同様にビジネススーツにも適している。 もちろん、上記はスーツ生地の世界への旅の出発点に過ぎない。次にジャケットやスーツの生地を選ぶときは、テキスタイルの出自(原料と工場の両方)、組成(100%素材なのか、ポリエステル混紡なのか)、そして製造に費やされた時間、技術、ケアなどの要素を考慮する必要がある。さらには、それをどのように着用する予定なのか、どのくらいのお金を使いたいのかといった、より個人的な考慮事項がある。以下が、世界有数の専門家たちの意見だ。 ■ウールならウール100%に 「まず第一にプラスチック素材を排除することです」。そう話すジェフリー・B・スモールは、自身の名を冠したブランドでイタリアの一流工場と協力し、極めてエクスクルーシブな(そして高価な)仕立て服を作っている。 「つまり、ポリウレタンや伸縮素材、石油由来の繊維が生地に含まれていないことです」。これにはいくつかのメリットがあるが、いちばんは肌触りにあると彼は言う。「自然素材はとにかく快適なのです。通気性が高く、着心地がよく、汗をかきにくいですからね。試着した途端に違いがわかりますよ」 ■生地の出所は重要だ 「時間が経つにつれ、どのようにドレープすべきか、どのような構造であるべきか、そしてそのように作られているには特定の理由があるのだということがわかってきます」。そう話すのは、ドレイクスのクリエイティブ・ディレクター、マイケル・ヒルだ。 「たとえば、私たちはダグデールブラザーズの特別なフレスコウールを使ってスーツを作っています。同社が100年にわたって作ってきた生地です。誰かがそれを真似すれば、それなりにいい見た目にはなるかもしれませんが、本物ほどの見映えはしませんし、本物ほど着心地よく感じることもありません」 ■価格だけの価値は必ずある いい生地は安くないのは確かだが、余裕があれば投資する価値は十分ある。北イタリアにある高級ファブリックメーカー、ヴィターレ・バルベリス・カノニコのクリエイティブ・ディレクター、フランチェスコ・バルベリス・カノニコは、いい生地はスーツに美しいドレープ、肌触り、見た目を与えてくれるだけでなく、長持ちもすると話す。 「生地を安くするために糸を少なくするメーカーもありますが、そうすると生地が弱くなります。私たちは可能な限り最高の生地を実現するために、可能な限り最高の原料からスタートし、可能な限り最高の糸を作っています。私は友人たちに、きちんと使い、手入れさえすれば、いいスーツは20年は楽しめるはずだと言っています」 From GQ.COM By Jeremy Freed Translated and Adapted by Yuzuru Todayama