<防衛省設置法で議論に> 憲法から見た「文民統制」と「文官統制」 首都大学東京准教授・木村草太
「文官統制」の廃止が意味するものは?
ところで、軍隊や自衛隊のトップに「文民」を置いたとしても、実際に「文民」が軍隊や自衛隊を統制することはかなり難しい。これは、自衛隊の人たちが、文民の指示をまもらない、愚かな人物だからではない。むしろ、その逆だから、文民統制は難しいのである。 自衛官は、国民のために命をかけて職務に臨む覚悟を持った人たちであり、自然と人々の尊敬を集める。さらに、自衛隊の運用には、特殊で専門的な知識が要求される。尊敬される英雄であり、かつ、専門知を持つ秀才のそろった自衛隊幹部たちの議論や要求を、「文民」が批判的に検証するのは難しい。 そこで、現在の法律では、内閣が自衛隊を指揮・運用する場合には、防衛省の官房長や局長、事務次官など、官僚の補佐を受けるルールになっている。専門知識を持つ「文官」に補佐してもらうことで、文民統制を実のあるものにしていこうという考え方である。これが、「文官統制」と呼ばれる仕組みである。 現在、政府は、この文官統制の仕組みを廃止して、文官の補佐なしに、大臣と自衛官のみで直接コミュニケーション可能な仕組みを作ろうとしている。もちろん、そうしたとしても、自衛隊の最高司令官は内閣総理大臣であり、憲法の要求する文民統制に明らかに反し違憲だとは言いがたい。 しかし、自衛隊の運用は、外交関係、政府の予算、国民生活に大きな影響を与える。文官統制をやめることで諸外国に不信感を与えないか、「文官」の補佐がなくても「文民」が適切な判断をできるのか、意思決定の合理性を十分に国民に説明できるのか、憲法が文民統制を定めた趣旨に照らし、慎重に検討すべきであろう。国民は、政府の説明に注意深く耳を傾けていかねばならない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 木村草太(きむら・そうた) 1980年生まれ。東京大学法学部卒。同助手を経て、現在、首都大学東京准教授。助手論文を基に『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)を上梓。法科大学院での講義をまとめた『憲法の急所』(羽鳥書店)は「東大生協で最も売れている本」と話題に。著書に『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)、『憲法学再入門』(西村裕一先生との共著・有斐閣)、『未完の憲法』(奥平康弘先生との共著・潮出版社)、『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書)、『憲法の条件――戦後70年から考える』(大澤真幸先生との共著・NHK出版新書)などがある。