まさか自分が58歳になって発達障害診断を受けるとは…失意のどん底で20年来の友人に言われた「ラッキーじゃん」の言葉に救われたワケ
友人が列挙した発達障害が疑われる行動の数々…
彼は相変わらずこちらの顔を見ようとしない。 患者と目を合わせないルールでもあるんだろうか、と思っていると……、「じゃ、来月は○月○日の○○時ってことで」と告げられる。 医者が席を立とうとしているのが気配でわかった。通院歴がある者の間では常識だが、精神科というものは初診時にはかなり時間をかけて問診したり心理テストをやったりする。 ここは大学病院だから特に念入りにやった。だが、再診以降はだいたいどこも5分間診療なのだ。 この頃、コロナの真っ最中で、レギュラーの仕事を失ったばかりだったので、かなり心細くなっていた。その上、発達障害だなんて。展開がキツすぎた。 「で、でもよくなる方法とかないんですか?」 すがるような気持ちでこの一言が口をついて出た。 医師は眼球だけ動かし目尻でこちらを目視しながら「まあ。これまでやったことないことやってみるとか?」と呟くと、パソコンの画面を切り替えて診察室から出て行ってしまった。 迷路のような病院の中を何度も行ったり来たりしながらやっと会計を済ませ、調剤薬局で抗不安剤と睡眠導入剤を受け取ったころには、すっかり疲れ果ててしまった。 それから数日間は廃人同様だった。寝込んでしまったのだ。スマホで銀行口座の残高を見ると憂鬱になる。年齢的には立派な大人なのに発達障害だって?!……気がついたら、ある人物に電話をしていた。 「ああ、元気。なんか用?」 なんの感動も伴わない女性の声が聞こえた。その人は20年間以上一緒に広告の仕事をしてきたグラフィックデザイナーさんだ。一才歳上で、困った時にはいつも彼女に相談してきた。 「実は、大学病院で発達障害だと言われた」 「へぇー、なーるほど」 まるで、そんなことわかっていたと言わんばかりの反応ではないか。なぜだ。 「意外じゃないの?」 「そうね」 以下、彼女が列挙した発達障害が疑われる僕の行動をまとめるとこうなる。 “外出先の道端であっても地面にバッグの中身を全部放り出して財布を探す” “独り言を言いながら駅のホームを歩き回る” “仕事中、カッとなるとパソコンを叩き壊す” “会話していると文脈を無視して急に話題を変える” “一年中同じ服を着ている” “会話中にスマホを見る” “社会的な手続きが苦手で、確定申告などを手伝ってもらっていた” “仕事のない日はいつも自宅で寝ていた” “言葉通りにしか物事を理解できず、まるで冗談が通じなかった” 彼女の話を聞きながら、確かに自分のことを言われているのだが、人ごとにも聞こえた。 同時にそんな人間に文句も言わず付き合ってくれた彼女に感謝の念が湧いてきた。が、やっぱり自分は診断通りなのかと再認識して意気消沈してしまった。