ヤクルト、なぜ勝てた? 強力打線とブルペンをリンクさせた継承力。
ヤクルトが14年ぶり7度目の優勝を果たした。史上稀に見る混セを制した141試合目の劇的なサヨナラ劇でのゴール。ファンの目の前で、グラウンド内で行われたビール掛けでは、「楽しい!」と山田哲人(23)ら、若きつばめ軍団がはしゃぎまわった。2年連続最下位から、就任1年目の真中満監督(44)が宙に舞う姿を見ながら、沖縄キャンプで前監督で今季からSDとしてチームを支えた小川淳司氏(58)の話を思い出した。 「チームの課題は明らか。リーグ最低の防御率。そこを上げるには守備力、センターラインを強化しなければならない。補強はしたが、では、それでイコール、すぐに結果に変わるかと言われれば、そんなに簡単な世界ではないから。真中もプレッシャーを感じずに指揮を取ってもらいたいんだ」 最下位に終わった昨シーズンも開幕前には旋風を巻き起こすのではないかと注目を集めていた。打撃部門では、山田や雄平(31)がブレイク。チーム打率.279、チーム得点の667は、リーグトップ。しかし、投手陣は? と言えば、リーグ最低の防御率、4.62で、特に救援防御率が4.58と最悪で逆転負けが、実に38試合もあった。救援には21個の負けがついた。 ある意味、チームの補強ポイントはわかりやすかった。だが、何もしないのがヤクルトのフロントだったが、今オフはお金をかけて動いた。FAでロッテから成瀬善久(29)、守備力に安定感がある日ハムの大引啓次(31)を獲得、新外国人のオンドルセクをストッパー候補として加えたのだ。 そしてドラフトでは、1位の左腕、竹下真吾(九州共立大―ヤマハ)、2位の風張蓮(東農大北海道)、4位の寺田哲也(四国ILリーグ香川)、5位の変則左腕、中元勇作(近大工学部―伯和ビクトリーズ)ら、即戦力の期待込めたピッチャーを3人そろえた。 結果として、成瀬は、7月初旬までは先発ローテーションを守っていたが、結果が出ずに2軍調整を余儀なくされ、7月31日の阪神戦で先発復帰したが、また4回途中でKOされて、2軍落ち。結局、14試合の登板で3勝8敗、防御率4.76。即戦力の新人投手は戦力にならずに、大引も序盤は打撃不振に苦しみ、故障もあって1軍にいなかった。だが、6月下旬から復帰すると下位打線のアクセントとして存在感を示した。打率.225、5本塁打、41打点は数字としては物足りないが、大引のバットで試合を決めたゲームも少なくない。 当初、ストッパー候補だったオンドルセクは、オープン戦などの内容から、セットアッパーに配置転換されて生きた。71試合に投げて5勝2敗、32ホールド、防御率2.08の数字を残し、同じく61試合に投げ5勝5敗、23ホールド、防御率2.40のロマン、73試合6勝1敗、21ホールド、防御率2.39の秋吉亮と、強固な中継ぎ陣を形成して、防御率、1.31、40ホールドの絶対ストッパーとなったバーネットにつなげる勝利の方程式を作った。チーム防御率の3.27は、リーグ4位の数字だが、救援防御率はトップの2.61だ。 「成瀬は数字を残せなかったが、序盤にローテーションを守っていた意義はある。7度も肘の手術をした館山が復帰してくるまでのゲームプランを立てることができた。ロマン、秋吉、オンドルセク、バーネットでつなぐ3イニング、4イニングは、阪神が岡田監督時代に完成させたJFKを彷彿させるようなチームカラーを確立させた。強力打線で序盤に先制すれば、勝ちゲームをつくりやすく、また、彼らが我慢すれば、終盤にゲームをひっくり返す展開も作ることができた」とは、阪神の育成を担当していて評論家の掛布雅之氏の分析。