イチから分かるキューバ なぜ米国と国交が途絶えた?
◆フィデル・カストロは今でも人気があるの?
その後、アメリカはソ連と手を結んだフィデル・カストロを「危険な独裁者」「極悪な共産主義者」と敵視し続けました。実際、キューバの政治は一党独裁で、反体制派への容赦ない弾圧も伝えられています。国民生活も厳しく、年間3万ともいわれるキューバ人が国を棄てています。アメリカは今日まで、キューバをテロ支援国家と名指しで批判してきました。しかし、カストロはアメリカの「恫喝」に屈することはありませんでした。カストロはいまもキューバの英雄なのか。国民はどう思っているのでしょうか。 革命世代の高齢者こそ支持は高いものの、若者にとっては過去の人、よくいえば「生けるレジェンド」に追いやられています。30~40代からは、遠回しな批判の声も聞かれました。ただ、他の独裁国家と大きくちがうのは、カストロのことを遠くを見る眼ではなく、みな身内のように語るということです。「フィデルはね……」とファーストネームで呼ぶこともあってか、批判も「老いた親父へのねぎらい」としか受け取れないことがしばしばでした。カストロ政権はうんざりといいながら、こう続けた人もいます。「ただね。フィデルがいなかったら、この国はどうなっていたことか」。 愛憎こもごも、平等な国家建設を目指してきたフィデルの「理念」だけは、うんざり顔のキューバ国民にも内面化されているようです。2008年にフィデルを継いだ弟ラウル・カストロも、一定の支持は得ています。カリスマ性の欠如が伝えられますが、それは「老いた親父」ほど血の濃くない「親戚のおじさん」への〈選択肢のない委任〉なので、致し方ないかもしれません。
◆チェ・ゲバラの人気はどうなの?
チェ・ゲバラはどうでしょうか? 首都ハバナだけでなく、ゲバラの肖像画は地方でもよく目にします。ただ、いまの国民には少し距離のある存在のようです。ゲバラのことを饒舌に語ろうとする人は多くありません。ゲバラはキューバ人ではないし(アルゼンチン人ですね)、模範的な「教科書の人」といった感じです。 キューバ国民に最も敬愛されているのは、ホセ・マルティ(1853~95年)かもしれません。日本人にはなじみがありませんが、独立運動の指導者であり、優れた詩人でもあります。フィデルに顔をしかめる人も、ゲバラに無表情な人も、ホセ・マルティの名を出すと「よく知っているね」と頬をゆるめます。 ただし外貨獲得の貢献度では、チェ・ゲバラは群をぬいています。カストロ兄弟もホセ・マルティも、太刀打ちできません。ゲバラはキューバ観光のアイコン。革命や社会主義思想に郷愁を感じる世代だけでなく、西欧の若者たちも惹きつけているようです。土産物店の稼ぎ頭は、いまもTシャツを初めとするゲバラ・グッズです。 (フリー編集者・大迫秀樹)