VAR未導入のJ2水戸vs長崎で起きた物議のPK判定変更…JFA審判委が経緯説明「プロセスが良くなかった」
日本サッカー協会(JFA)審判委員会は19日、千葉市内の高円宮記念JFA夢フィールドでレフェリーブリーフィングを行い、ピッチ上での判定変更が物議を呼んだJ2リーグ第18節の水戸ホーリーホック対V・ファーレン長崎戦の事例を説明した。 【写真】「マジで美人」「可愛すぎてカード出る」現地観戦した女子アナに称賛集まる 今月2日に行われた水戸対長崎戦では2-2で迎えた後半アディショナルタイム6分、長崎のMFマテウス・ジェズスがペナルティエリア内でドリブル突破を仕掛けると、水戸のMF前田椋介の両足に挟まれるような形で転倒。榎本一慶主審はその時点ではファウルの笛を吹かなかったが、副審(A1)や第4審との協議の結果、判定がPKに変更された。 今回のケースはVARの導入されていないJ2リーグゆえ、判定変更に至るまでのプロセスが疑念を呼んだ。主審はプレーが切れた後、いったんは長崎ベンチの「PKではないか」という抗議に対応。続いて副審や第4審との協議を行ったため、長崎側の抗議を受けたことによって判定変更に踏み切ったようにも思われた。 そのため判定変更後、今度は水戸側からの猛抗議を呼び、さらに試合が中断。主審が水戸の森直樹監督に説明を行った後、約8分間の中断を経て長崎のPKで試合が再開された。そしてこのPKをFWフアンマ・デルガドが決め、長崎が勝ち越しゴールを記録。その後、スタジアムが騒然とする中で試合終了となった。 ブリーフィングには扇谷健司審判委員長と佐藤隆治JFAレフェリーマネジャーが登壇。JFA審判委員会の見解としては「テクニカル上はPKとすべき事象だと判断している」「競技規則では次の再開までであれば最終判定を変えることは認められている」とピッチ上の最終判定を支持しつつも、「審判チームで協議してPKとした判断は間違っていなかったが、そこのプロセスが良くなかった」と総括した。 佐藤マネジャーが着目したのは「ただ正しい判定をするだけでなく、いかに納得してもらえる判定をするか」という観点だ。その観点に沿うと、今回のケースでは「ベンチのプレッシャーを受けて変えたと捉えられてしまう」ことが問題点。両チームに対する説明を行う前に「まずは(主審が判定変更のために)審判チームを呼ぶべきだった」と結論づけた。 審判委員会はこの事例が起きた直後、1級審判員全員に今回のプロセスに関するオンライン会議を行ったという。この日、報道陣に明かされた説明資料によると、次のような経緯で判定変更が行われていたという。 ①事象後の審判員の判断 主審:水戸選手のタックルが長崎選手の脚に接触したのは見えていたが、ボールに触れた可能性があったことや、左脚の接触が水戸選手の背中で見えなかったため、ノーファウルと判断した。 副審:タックルの瞬間、PKと判断してインカムを通じて「PK!」と助言。主審の判定はノーファウルのままだったが、フラッグアップや主審を呼んでの伝達はしていなかった。 第4審:主審からは助言を求める発信がなかったが、「ボールに触れていないならPK」と伝達。その後、長崎ベンチのスタッフ・選手に囲まれる形となった。 佐藤マネジャーはまず主審のポジショニングについて「ここで良かったのかどうか」と改善の余地を指摘。より角度をつけた位置で左脚の接触を見ることが可能だったという見解を示した。また副審に対しては主審への伝え方、第4審に対しては「主審から聞かれていないのに条件付きの情報が必要なのか」という問題提起も行った。 ②主審と長崎ベンチのコミュニケーション 副審と第4審がチーム役員や交代要員の対応をしていたため、主審が自ら長崎ベンチに行くことを選択。「監督に経緯を説明したいから他の方は下がってほしい」と伝え、下平隆宏監督と会話をした。その際は副審、第4審とコミュニケーションを取る前だったため、「右足の接触は確認できたが、水戸の選手の背中で隠れ、ボールに触れたかどうかは分からなかった」と説明したという。 佐藤マネジャーは主審が長崎ベンチに向かった選択について「notPKという説明をする必要があるのか」という観点から問題提起。また「ノーPKと判断しているなら、ベンチよりもレフェリーがいいところで見ているのだから、レフェリーの判定を受け入れてもらうようにできたはず」とし、「自身の判定に疑念があるなら、審判チームに速やかに確認を行うべきではないか」と反省点を挙げた。 ③審判団内でのコミュニケーション 主審:「右脚のコンタクトは見えたが、ボールに行ったかどうか分からない」と伝達。副審、第4審から「蟹挟みになっているからPK」という助言があったため、PKのシグナルを示した。 副審:主審から「どう見えたか」と聞かれ、第4審とともに「こちらからはPKに見えている」と伝達。またさらに念押しし、「PKにしたほうがいい」と助言した。 第4審:3人で情報共有を行った後、主審に「ボールに触っていないなら、タックルは蟹挟みで倒していたのでPK」と伝達した。 佐藤マネジャーは第4審がボールへの接触有無に条件をつけていることに触れ、コミュニケーションの中で「ボールに触れたか、触れていないか」の根拠が明確に問われていないことに改善点を見出した。 ④主審と水戸ベンチのコミュニケーション 主審は自らの意思で水戸ベンチに向かい、ベンチに座っていた森監督を呼んでもらい、判定変更の理由を説明。「私自身、右脚の接触は確認していたが、左脚の接触は全く見えていなかった。左脚が蟹挟みの状態で接触したことを副審、第4審のサポートを受けてPKに変更した」と伝えた。監督から「一度決断しているのに助言で変わるんですか」と質問があり、「見えていないことをサポートしてもらうことはたくさんある」と伝えた。