伊藤美誠 第二章 再出発の第一歩「このままじゃ終われないし、終わりたくない」
一方、選考レースを独走したのは黄金世代の同い年、早田ひなだった。 無二の親友と公言する伊藤と早田。ダブルスも組み、“みまひな”は世界を席巻した。東京オリンピックでは早田が代表から落選。リザーブメンバーとなり練習相手を務めるなど、伊藤をサポートする役割に徹した。 そして、パリオリンピック。伊藤のいない舞台で早田は、左手を負傷しながらシングルスで銅メダルを獲得。
その姿ほど、伊藤を勇気づけたものはなかった。そして、自分が目指すところを決め、公言した。 「世界ランク1位になるのが目標です。世界の方で1位になるのが目標です。このままじゃ終われないし、終わりたくないし」 第一歩を踏み出したフランスには、会いたい人がいた。“その人に会えたら新しい自分にも会える”と伊藤は感じていた。自費で賄う武者修行。住所を頼りに目的地へたどり着くと、お目当ての選手はほどなく現れた。
フェリックス・ルブラン。 パリオリンピック男子団体3位決定戦で日本の前に立ちはだかり、シングルスでも銅メダルを獲得。 二つのメダルをフランスにもたらした英雄は、何とまだ18歳だ。持ち味は意外性で、ひらめきと創造が信条。つまり伊藤と同じタイプで、「美誠パンチ」に似たカウンターも得意にしている。
合同練習は和気あいあいとしたバレーボールから始まった。 「練習は楽しくなきゃ」と笑うルブラン。伊藤にとってはすべてが新鮮な環境だ。そして念願のルブランとの打ち合いが始まった。 フランスまで足を運んだのはこのため。「強い選手が自分を変えてくれると思ったから」である。伊藤の汗が止まらない。「1枚じゃ足りないな、タオル」。それほど夢中に打ち続けた。 相手は6歳も年下、18歳の高校生。やり取りしたボールは言葉の代わりであり、それは何よりも雄弁な会話となった。 「(卓球スタイルが)型にはまっていない、それがいいなと思って。自分は小さい頃からそういうタイプだったし、今でもそういう部分が欲しいと思うことがたくさんある。自分の良さを引き出せるチャンスになるんじゃないか、と思います。吸収するものが多くて、すごく楽しかったんですけど、すごくおなか一杯になりました」と伊藤は手ごたえを感じている。