新型BYDシールはクルマとしての完成度が驚くほど高かった! 中国からやってきた新しいプレミアムセダンの実力に迫る
高性能に衝撃!
強力なのはエアコンだけではない。強力なモーターがもたらす動力性能は驚異的だ。 シールにはリヤにモーターを搭載する後輪駆動モデルと、リヤにくわえてフロントにもモーターを搭載するAWDモデルがある。後輪駆動のベースモデルは312ps、AWDモデルは529psのシステム最高出力を発生する。0-100km/h加速はベースモデルが5.9秒、AWDモデルは3.8秒だ。 529psの実力がどれだけスゴイかというと、車速を問わず(低車速のほうが効果は大きいが)、アクセルを全開にした瞬間に首が後ろに倒れそうになり、そのままにしておくと血液が後頭部にかたよって意識が遠くなりかけ、まずいまずいとアクセルペダルを戻し、フーッと息を吐いて、「何だったんだ、今のは!?」と、呆然とする感じである。自分の意思でペダルを踏んでおきながら。 シールのAWDモデルはポルシェ「タイカン」のターボ系やメルセデスAMG「EQS」と同類の、加速というより“ワープ”と評したくなるほどの、瞬間移動を披露する。BYDはシールを“e-Sport Sedan”と表現しているが、その表現に恥じないパフォーマンスの持ち主であることは間違いない。 望むなら瞬間移動を体験させてくれるAWDモデルは(電子制御ではなく)メカニカルな油圧可変ダンパーを標準装備。あり余るパワーを生かしてワインディングロードで思い切り振りまわすのに向いた足まわりのセッティングになっているようで、市街地や高速道路を巡航時には少々硬めに感じる。一方、312psのベースグレードでも十分にパワフルだ。こちらはコンベンショナルなダンパーを搭載。フロントの軽さもあるのか、AWDに比べて乗り味はしなやかである。 両グレードともバッテリー容量は82.56kWh。これだけの容量があれば、日帰りドライブなら残量を気にすることなく過ごすことができそうだ。シールが優れているのは充電性能で、最大105kWの出力を受け入れることができる。BYDのスタッフが90kWの充電器で30分間充電したところ(充電開始時の残量32%)、42kWhの充電ができたという。kWhあたり6kmは走るというから(車格を考えると優秀な数字だ)、30分間の充電で約250km分のエネルギーが補充できる計算だ。 BEVとの付き合いが深くないと実感しづらいかもしれないが、シールのこの充電性能、とんでもなく高い。ロングドライブを苦手とするBEVの固定観念をくつがえす高性能ぶりだ。固定観念をくつがえしにかかっているのは車両価格も同様で、ベースグレードが528万円、AWDは605万円である。CEV補助金(申請中)がドルフィンなどとおなじ35万円で適用されると、ベースグレードは実質400万円台、AWDは500万円台で購入できることになる。 (海洋シリーズだけに)円安の“波”にあらがってDセグメントBEVセダンの価値感を破壊しにかかっているのが、BYDの新型シールだ。見て、触れて、走らせた印象からすると、人気の波に乗るだけの実力は十分ありそうである。
文・世良耕太 写真・小塚大樹 編集・稲垣邦康(GQ)