「エイリアン」最新作を託されたフェデ・アルバレスが明かす、「同じことは全然言わなかった」歴代監督たちのアドバイスとは?
異常な速さで進化する恐ろしき生命体、“エイリアン”との壮絶な死闘を描いた名作映画『エイリアン』(79)。公開から45年、シリーズの最新作にして原点である第1作目の“その後”を描く『エイリアン:ロムルス』が、いよいよ9月6日(金)に公開となる。最新作の監督に抜擢されたのは、超人的な聴覚を持つ盲目の老人が、自身の家に強盗に入った若者たちを恐怖のどん底に突き落とす「ドント・ブリーズ」シリーズをヒットさせた鬼才、フェデ・アルバレス。宇宙という究極の密室のなかで繰り広げられるサバイバル・スリラーを描くにあたり、遺憾なくその手腕を発揮しているアルバレス監督は、「エイリアン」シリーズの大ファンだと公言している。本作を手掛けるにあたってのこだわりや、製作として参加している“エイリアンの創造主”、リドリー・スコットからもらったアドバイス、ファン要チェックのイースターエッグのヒントまで語るインタビューをお届けする。 【写真を見る】シリーズ生みの親、リドリー・スコット。『エイリアン:ロムルス』鑑賞後に「Fuckin’ Great!」と絶賛! 人生の行き場を失った6人の若者たちは、生きる希望を求めて宇宙ステーション“ロムルス”に足を踏み入れた。しかしそこで彼らを待ち受けていたのは、寄生した人間の胸を突き破り、異常な速さで進化する“エイリアン”。彼らは極限状態のなかで逃げ切ることができるのか。 ■「リドリーからは『絶対に観客を見くびってはいけない、過小評価は厳禁だ』と言われていました」 ――“ロムルス”はローマの建国神話に登場する双子の兄弟の兄の名前です。それをサブタイトルに選んだ理由は? 「ロムルスとレムスは神話に登場する双子の兄弟。最終的にはロムレスはレムスを殺してしまうんだけど、本作の登場人物の多くは、文字どおり兄弟姉妹だったり、あるいはそう言ってもいいような関係性を築いている。キャラクターに関して言えば、そういう彼らの兄弟愛について語っているので、この名前を選んだわけです」 ――プロデューサーのリドリー・スコットだけではなく、『エイリアン2』のジェームズ・キャメロンからもアドバイスをもらったそうですね。それぞれのアドバイスでもっとも有効だったのは? 「おもしろかったのは、彼らが異なるアングルでそれぞれの作品にアプローチしていたことでした。2人とも同じ『エイリアン』を手掛けているにもかかわらず、同じことは全然言わなかった。共に映画を極めた巨匠だけれど、映画作りに関する考え方はかなり違うんです。まずリドリー。プロジェクトが始まった当初から言われて心に留めていたのは、脚本に関することが多く『絶対に観客を見くびってはいけない、過小評価は厳禁だ』と言われていました。これは、特にジャンル映画を作っている時に重要なこと。わかりやすくするために物事をシンプルにしたり、観客が理解できないだろうと決めつけて説明過多にしたり、何度も繰り返したりする傾向があるからです。でも、リドリーは『決してわかりやすくするのではなく、常により高みを目指すべきだ』と言い続けて、僕の背中を押してくれたんです。 一方、ジム(ジェームズ・キャメロン)のほうは、こういう映画がいかにハンドメイドであるべきかという話をしてくれました。僕はずっと『エイリアン2』のバジェットは大きかったんだろうと思っていましたが、今回、ジムをはじめいろんな関係者と話して、とても低予算(1986年製作当時、1850万ドルだったと言われている)で作られたことを知りました。製作費がクリエイターの野心に追いついていけない場合、監督は作品のあらゆるレベルで関わらなければいけないということを理解させてくれたんです。ジム曰く、常に現場にいることはもちろん、パペットを操り、時には必要なものも作る。監督として持っているものすべてをつぎ込み、その姿勢と背中でみんなを引っ張っていく。僕は今回、そんなジムの言葉どおり映画作りの細部にまで深くかかわった。そして、自分の手で作っていった。本作も実際の製作費以上に大きく見えるとうれしいですね」 ■「『エイリアン2』のエフェクト担当が『当時、この技術があれば!』って悔しがっていましたよ(笑)」 ――デジタルだけに頼ることなく旧来のSFXやVFXを使っているそうですね。しかも、それを担当しているのは『エイリアン2』のスタン・ウィンストン・スタジオを継いだレガシー・エフェクツであり、『エイリアン3』などを手掛けたアマルガメイテッド・ダイナミクスの後継者であるスタジオ・ギリスです。プラクティカルな技術や、これらの工房にこだわった理由を教えてください。 「このフランチャイズきっての傑作である『エイリアン』と『エイリアン2』のようなルックやフィーリングを持たせるためには、その2本の哲学を貫きつつ、同じような技術を使うべきだと考えた結果です。2本ともデジタル以前の作品だから当然、エフェクトはプラクティカルでデジタルはナシ。でも、それを徹頭徹尾守ったわけじゃない。アニマトロニクスひとつをとっても2024年版の技術が使われているんです。つまり、実際に作れるもの、建てられるものは物理的に作り、テクノロジー自体は現在の最新のものを使っている。『エイリアン2』のエフェクト担当がレガシー・エフェクツ社のクルーとしてシリーズに帰ってきてくれたのですが、『当時、この技術があれば!』って悔しがっていましたよ(笑)」 ――2作には絡んでいない、「スター・ウォーズ」や「ロボコップ」シリーズ、『ジュラシック・パーク』(93)なども手掛けたフィル・ティペットの工房、ティペット・スタジオを選んだのは? 「いうまでもなく、フィルが大好きだからです(笑)。彼のワークショップが本作のストップモーションの一部を手掛けています。プラクティカルなエフェクト好きならみんなフィルの大ファンって決まってるでしょ!(笑)」 ■「『エイリアン』は『スター・ウォーズ』のダークな双子の片割れのような感じ」 ――フッテージなどを観ると『エイリアン』のみならず『ブレードランナー』(82)の雰囲気や影響もあるように感じました。いかがでしょう? 「そうです。なぜなら、避けては通れませんよね?どちらの作品も“リドリー・スコット・ユニバース”に属しているわけで、僕たち多くのファンにとっては2本のユニバースの境界線は曖昧だと思います。例え僕が監督としてオマージュを入れなくても、アートディレクターやセットディレクターが『ブレードランナー』絡みのイースターエッグをたくさん仕込んじゃっているんですよ(笑)」 ――ぜひ、ひとつだけでも教えてくれませんか? 「じゃあ、ひとつだけね(笑)。ほら、『ブレードランナー』にとって重要なアイテムのひとつは“オリガミ”(本編の要所に登場)じゃないですか?これが(宇宙船の)コックピットをはじめ、いろんなところに置かれているんです。探してみてください!」 ――なるほど!もうひとつ教えてください。その後を描く物語ということで、『エイリアン』や『エイリアン2』との関連性はあるのでしょうか? 「うーん…それはネタバレになるから言えませんね(笑)。ヒントをひとついうと、最初の『エイリアン』とのつながりはあるかもしれない。それは観てのお楽しみで、公開までネタバレしないようにみんなでがんばって秘密厳守しているところなんですから(笑)。実のところ、観客には最高の映画体験をしてほしいから、情報量は少ないほうが絶対にいい。劇場で本編を観て、オリジナルとつながっている部分に気づいたなら『おお!そう来るか!』と思ってもらえると確信しています。その一方で、オリジナルを観ていない世代がシラけるようなこともないように作っている。そういうバランスはきっちり取ったつもりです」 ――1979年から現在まで人気の衰えることのない「エイリアン」シリーズです。その魅力をあなたなりに分析すると? 「やっぱり世界観の大きさだと思います。“エイリアン・ユニバース”のなかでたくさんの物語を語ることができる。『スター・ウォーズ』のように観客に響くなにかがあるんだと思います。キャラクターだけではなく、誰もが『エイリアン』の世界観に心惹かれ、またあの世界に戻りたいと願ってしまう。僕は、『スター・ウォーズ』が元気な間は『エイリアン』も元気に生き続けると思ってますからね(笑)。というか、そもそも僕は、『エイリアン』は『スター・ウォーズ』のダークなほうの双子の片割れみたいな感じがしているんです。公開時期も、『スター・ウォーズ』(エピソード4)のあと、1年後に『エイリアン』1作目は公開されました。似た美的センスがあるけれど、『スター・ウォーズ』より大人向けでダークな怖いトーン。そして『スター・ウォーズ』にはなかったスリルとホラーがあった。僕に言わせればこの2本はよく似ていて、僕は時々『エイリアン』のことを『スター・ウォーズ』の“ダークサイド”って呼んでるくらいなんですよ(笑)」 ――だから、同じように語り継がれているわけですね。 「そう。物語というのは、語るのをやめれば、やがて消えてしまうもの。老いて、死んで、消えて行く。よい物語が、火を囲んで何世代にもわたって語り継がれるように、『エイリアン』や『スター・ウォーズ』もそうしないといけないと思っています。『エイリアン』は、それに値するすばらしい物語であり、クリーチャーも驚くほど秀逸なんですから!でも、クリエイターとして、新しい観客が観たいと思うような新しい技術と新しい物語で語り直さなければいけない時もあると思います。それこそが今回、僕が重要視していたモチベーション。僕を含めたオリジナルが大好きなファンのために、新しい物語として語りたかったんです」 ――最後に、完成した映画を観たスコットに「Fuckin’ Great(クソすばらしい)」と言われてどう思いました? 「ほっとしました(笑)。リドリーはとても正直な人で、思ったとおりのことを言う。もうなにかを気遣うような年齢じゃないし、そもそもとても正直な人です。これまで自分が(プロデューサーとして)関わってきた過去の作品に対しても、かなり批判的だとリドリー自身が言っていたので最初の試写ではむちゃくちゃ緊張したんです。でも、『Fuckin’ Great!』と言ってくれた(笑)。作品そのものも、作品がもつエネルギーも気に入ってくれたのが伝わってくるようなリアクションを見せてくれたんです。製作のプロセスにおいてもリドリーは大いに助けてくれて、僕を信じてくれた。こんな幸せなことはないし、監督冥利につきます。 だってほら、誰にだって仕事において敬愛する巨匠がいるでしょう?いつか5分だけでも話したり、質問できたらいいなと夢見るような存在。リドリーは僕にとってまさにそれだった。彼の言葉は(ギリシャ神話に登場する)デルフォイの神託のオラクル(神の言葉)のようなものだったんです(笑)。僕は、映画について、脚本について、編集について、彼の言葉にはすべて耳を傾けました。時々判らないこともありましたが、それは僕がまだ若造で経験不足だから。いつかきっとわかる日が来るだろうと信じて、彼の言葉のすべてを常に携帯してたメモ帳に書き留めました。いまでも何度も読み返しています。本当にスペシャルですばらしい体験。本当に『Fuckin’ Great!』です(笑)」 取材・文/渡辺麻紀