フェンシング個人初の金メダルを決め、笑顔を見せる加納（撮影・中田匡峻）

　「パリ五輪・フェンシング男子エペ個人・決勝」（２８日、グランパレ） 　フェンシング男子エペ個人の加納虹輝（２６）＝ＪＡＬ＝が優勝し、２０２１年の東京五輪団体に続いて金メダルに輝いた。個人種目の日本勢では、０８年北京五輪男子フルーレ銀メダルの太田雄貴を上回る、初の快挙だった。１９年にワールドカップ（Ｗ杯）初優勝。身長１７３センチとエペでは小柄ながら世界でも屈指のスピードと剣さばきを誇る。今大会も持ち味を存分に発揮し、頂点へ勝ち上がった。山田優（山一商事）は準々決勝でボレルに延長の末に１１－１２で屈した。女子フルーレ個人はキーファー（米国）が２連覇を果たした。 【写真】フェンシング金！美しい会場を支えた「日本の魂」を太田雄貴氏が紹介 　歴史の扉を開けた加納は、まっすぐと両腕を突き上げた。「あと１点のところから絶対勝てるという自信があった。勝った瞬間に手を上げるのは決めていた」。東京五輪での団体金に続き、個人では全種目を合わせて日本勢初の金メダルを獲得。会場となった世界遺産の歴史的建造物グランパレで日の丸が揚がり、「君が代」が厳かに流れる。目にうっすら涙を浮かべながら聞いた立役者は「この舞台で、まさか自分が金メダルで君が代を聴ける日がくるとは思ってもいなかった。フェンシングをやってきて良かった」と感慨にふけった。 　フェンシングの本場での頂上決戦。相手は地元フランスのエース、ヤニク・ボレル（フランス）とあって、観客の地鳴りのような大歓声も湧き起こる。それでも加納は、頭二つ大きな相手に対し、小刻みなステップで巧みに間を操りながら、変幻自在のタイミングで得点を重ねた。リーチが長いほど有利になるエペにおいて、身長１７３センチの加納はきわめて小さい。ただ、体操仕込みの俊敏性と体の柔らかさで翻弄（ほんろう）。相手が焦れば焦るほど、小兵の土俵となった。 　０８年北京五輪で太田雄貴氏が銀メダルを獲得する試合を見て、フェンシングを始めた。その太田氏を超える快挙に「思ってもいなかった。感慨深いし、信じられない」と加納。ＩＯＣ理事の太田氏も会場で観戦し、「こんなにかっこいい勝ち方はない。ずるい」と興奮冷めやらない様子で称賛した。 　「（太田さんの試合を見てなかったら）やってなかった。太田さんを見て僕がフェンシングを始めたように、僕を見てフェンシングを始めてくれる子がたくさん増えたらいい」（加納）。３年前にバズった、“エペジーーン”を再びとどろかせた。まだまだ国内ではマイナー競技だが、また一つステップを駆け上がった。 　◆加納虹輝（かのう・こうき）１９９７年１２月１９日生まれ、愛知県出身。山口・岩国工高時代にフルーレからエペに転向。１９年にワールドカップ（Ｗ杯）で初優勝し、２１年東京五輪エペ団体で日本フェンシング史上初となる金メダルに輝いた。早大出。１７３センチ、６５キロ。