上川隆也が忖度ゼロ、エッジの効いた弁護士を好演!キレのある演技が光る、佐方貞人シリーズ第1弾「最後の証人」
上川隆也が気骨ある"ヤメ検弁護士(=元検事の弁護士)"を演じた人気シリーズの第1弾が「ドラマスペシャル 最後の証人」だ。原作は「狐狼の血」などで知られる柚月裕子の傑作法廷ミステリー。 【写真を見る】弁護士を演じた上川隆也と倉科カナ 上川と言えば「遺留捜査」の飄々とした糸村役や、「執事 西園寺の名推理」の西園寺一役など、人気シリーズが多くあるが、本作の"佐方貞人シリーズ"で演じている主人公は忖度ゼロで、自分の信念を貫くタイプの弁護士だ。上川自身、糸村を演じる時と佐方を演じる時では脳が違うと語っている通り、醸し出す雰囲気からして別人である。 そんな佐方の弁護士事務所に所属し、裁判を共に戦う新人弁護士・小坂千尋を演じるのは倉科カナ。食べることが何より好きな明るい性格の女性で、佐方からも「食べるのか喋るのかどちらかにしろ」と注意されているほど。そして佐方の元同僚で優秀な公判検事・庄司真生を演じているのが本作で検事役に初挑戦した松下由樹。裁判で佐方とバチバチに火花を散らす役どころだ。 物語は、とある地方都市のホテルの一室で起きた殺人事件の容疑をかけられた島津(大杉漣)の弁護を佐方が引き受けたところから展開される。被害者と不倫関係にあったことが疑われる容疑者は限りなく黒に近いと言える人物だが、そんな島津の弁護を引き受けた佐方は、小坂に「仕事を引き受ける理由は面白いか、面白くないかが基準だ」と言い切る。そんな佐方の信条は「余計なものの中に本当のことが隠されている」。滅多に笑わず、決してブレない弁護士になりきった上川の演技のキレ味に引き込まれる。 ■容疑者・島津に対面!弁護士・佐方を演じる上川の迫力に震える ホテルで人妻を殺害した容疑で勾留されている島津は、多角経営で知られる島津ホールディングスの会長。誰もが自分の言うことを聞くと思っている傲慢な男だが、佐方は初めての接見の時に、金で交渉しようとする島津を全く意に介さず、"弁護を引き受ける条件は嘘を決してつかないことだけだ"と言い放つ。その迫力と圧は権力者が思わず黙りこんでしまうほど。やがて島津の過去が浮かび上がってくる中、佐方が接見室で島津の態度にパイプ椅子を叩きつけ、椅子の背を前にして座り、率直に疑問を投げかけるシーンでは、射るような鋭い視線が島津に向けられる。我が道を行く点は「遺留捜査」の糸村と共通しているが、佐方を演じる際の佇まい、目つき、セリフ回し、その全てにエッジを感じさせる上川の演技力がさすがである。 ■常人には考えられないサプライズな行動と裁判での発言にドキドキ 小坂がキラキラして喜ぶ豪華な食事にも興味を持たない佐方。四六時中、事件のことを考えているため、犯人が使った凶器と同じステーキナイフで小坂に悲鳴を上げさせたりと、空気を全く読まない行動に出る。そんな2人の粘り強い捜査が徐々に実を結んでいくのだが、本作の見どころのひとつは検察の庄司と法廷で争うシーン。 犯行現場となったホテルのフロント業務の男や、島津を乗せたタクシー運転手、被害者と島津が知り合った陶芸教室に通う主婦、司法解剖をした教授、被害者の元夫だったクリニック院長(石黒賢)など、さまざまな証人が尋問され、法廷でも佐方は読めない発言や質問で周囲を驚かせる。島津の有罪を断言する庄司が公判の後に佐方にその言動の真意を問い、「罪を犯すのは人間だ。我々の仕事は人間を見ることにある」と答えるシーンなど、構築されたミステリーと共に佐方の数々の名言も味わい深く、上川の存在感によって主人公の魅力が際立っている。 人気シリーズの始まりとなった本作を、上川のキレのある演技に注目しながら見てほしい。 文=山本弘子
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