初場所で綱取りに挑む琴桜、先代の祖父は努力重ね“3度目の正直”32歳で横綱に【大相撲】
しかし、72年九州場所で3度目の優勝を果たすと、続く73年初場所でも14勝1敗で連続優勝。この2場所は、同時期に綱を張っていた北の富士さんが生前、「立ち合いが走ってくるんだもの。怖かったよ」というほどの踏み込みからの攻めが復活。 見事に第53代の横綱を射止めた。その頃本人は、「弱い、弱いと言われて、肩身の狭い思いをした女房と娘のことを思っていた」と話したという。娘というのは長女の真千子さん。現在の2代目琴桜の母、佐渡ケ嶽部屋(師匠・元関脇琴ノ若)の女将さんだ。 時代はちょうど「貴輪(きりん)」と称された元大関貴ノ花(元横綱3代目若乃花、貴乃花の父)と、元横綱輪島の2人が台頭してきた頃だった。72年九州は2人の新大関場所。続く初場所も、話題の一番手は琴桜ではなかった。 古参大関には、そんな新興勢力への意地も、あっただろうが、話によると稽古場でいつも全力出し切る琴桜は、伝統的な稽古に固執せず、当時では珍しいランニングを取り入れたりしていた。初場所前は「世間がなんと言おうと、ワシははっきりと横綱を意識している。たとえ1場所でも横綱になりたい」。新しい鍛錬法も取り入れ、意欲を語ったという。 心優しく、努力と忍耐を忘れなかった先代に、当時の角界のご意見番であった横綱審議委員会は、「大関での2場所連続優勝だし、まじめな人柄、横綱になる十分な貫禄と資格を備えている」と満場一致で推挙を決めた。 さて、2代目である。取り口は馬力と気迫で攻めに徹した先代というよりも、長い手足を活かして懐の深さで負けない相撲が持ち味だった父である師匠(琴ノ若)に似ている。 昇進への共通点は、九州場所で14勝での優勝が起点になっていることと、新興勢力として大関2場所目の大の里の存在があることだろう。苦労して「3度目の正直」で頂点に上り詰めた祖父に対し、体重が3㎏増えて181㎏になった孫は初挑戦の初場所でどんな結果をもたらすのか。実に待ち遠しい。
(竹園隆浩 スポーツライター)
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