『嘘解きレトリック』鹿乃子が繊細に描き出した“本当” 温かな余韻を残した松本穂香の一言
本当の気持ちを余すことなく伝えることは、時として私たちの想像以上に難しい。相手を思いやるあまり言葉を飲み込んだり、傷つけることを恐れて距離を置いたり―その慎重さが、却って大切な真実を覆い隠してしまうことがある。『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)第10話は、嘘を見抜く特別な力を持つ鹿乃子を通して、私たちが日常で見落としがちな“本当”を繊細に描き出した。 【写真】フミ(若村麻由美)と抱き合う鹿乃子(松本穂香) 探偵事務所で左右馬(鈴鹿央士)の助手を務める鹿乃子(松本穂香)は、母フミ(若村麻由美)への手紙をポストに滑り込ませた。これまでも母への手紙は欠かさなかったものの、今回初めて差出人欄に事務所の住所を記したのだった。それは、この場所が彼女にとってただの職場を超えた、確かな居場所となった証なのかもしれない。 ある日、タロ(渋谷そらじ)と言葉を交わした鹿乃子は、「サンタクロースには何を願うの?」と問われ、首を傾げる。タロは鹿乃子がこれまでクリスマスを過ごしたことがないと知り、心に温かな企みを抱く。ヨシ江(磯山さやか)に相談し、家族で営む『くら田』でのクリスマス会を提案したのだ。 父・達造(大倉孝二)の腕を振るう料理、左右馬や端崎(味方良介)たちの協力を得た装飾……すべては鹿乃子への秘密の贈り物として準備が進められていく。だが、計画を耳にした左右馬は眉を寄せた。嘘を見抜く力を持つ鹿乃子に、この秘密を守り通すことができるだろうかと。 静かな町を巡りながらビラを貼っていた鹿乃子の耳に、突然の騒ぎが飛び込んできた。書店から嘉助(黒川想矢)が飛び出し、その後を利市(橋本淳)が追いかける姿が。利市から協力を求められた鹿乃子は、迷うことなく頷いていた。 その頃、左右馬は寺へと向かう途中だった。つくも焼き屋のじいさん(花王おさむ)の屋台引きを手伝い、合間に稲荷の掃除もこなしていく。そこへ1人の婦人が近づき、祝探偵事務所への道を尋ねてきた。その様子から、左右馬は即座に彼女が鹿乃子の母・フミだと悟る。しかし素性は明かさず、「祝探偵は相当面倒なやつですからねぇ」と、さりげなく会話を紡いでいった。 物を盗む父を持った過去を背負う嘉助は、人を信じる心さえ失っていた。そんな彼に、利市は静かに語りかける。「助けてくれたり、許してくれたり。信じてくれたり。信じてくれた人がいたからなんだよな」。そして「いいことが一つあったと思って、嫌なこと一つ帳消しにしな」と、優しく背中を押した。そしてこの言葉は、側でそっと聞いていた鹿乃子の心にも深く響いたのではないだろうか。彼女もまた、誰かに信じてもらえたからこそ、少しずつ心を開いていくことができたのだから。 ようやく巡り会えた母娘の間に、沈黙が流れる。村を出る鹿乃子に「いつでも帰っておいで」と告げたあの日。その言葉が嘘だと見抜く能力があるからこそ、鹿乃子は「自分の居場所はもうここにはない」と感じてしまったのではないか。フミの胸を、そんな後悔が締め付けていた。だが、それは決して娘を拒絶したわけではなく、むしろ村に戻って再び傷つくことを、母として案じていたからこそだった。「少しの嘘を恐れて、たくさんのホントを伝えていなかった」。フミの言葉には、長い年月を経て初めて紡ぎ出せた真実が込められていた。 「嘘がわかるってことは、ホントがわかるってことでしょう?」 時に人は、相手を思いやるあまり、真実の言葉を飲み込んでしまう。その優しさが却って誤解を生み、心の距離を広げてしまうことがある。クリスマス会のサプライズ然り、誰かの優しい嘘ですらも、特別な力をもった鹿乃子を時に傷つけることを左右馬はよく理解しているのだろう。 「お母さん、会いにきてくれてありがとう」 松本穂香は、その一言に、長い年月を経てようやく母に会えた喜びと、この街で見つけた鹿乃子の強さを、見事に込めていた。「ただいま」でも「おかえり」でもなく、「ありがとう」。鹿乃子の心の機微を飾らない表情と凛とした声で表現した一言は、観る者の胸にそっと温かな余韻を残していったのではないだろうか。たくさんの「ありがとう」を抱えながら、鹿乃子はこれからも強くなっていくのだろう。
すなくじら