重大医療ミス多発の背景にある「国民皆保険制度」の限界…「日本の誇れる制度」のために必要な議論
神戸市内の病院で重大な医療事故が疑われる事例が発生している。当該病院がずさんな運営をしていた可能性は高いが、国民皆保険制度の限界という制度上の問題も見え隠れする。日本の医療制度は崩壊寸前ともいわれるが、問題の根は深い。 【写真】大事故が起きていないのが不思議な「最近、増えている身近な食べ物」
慢性的なオーバーワークの原因
神戸市垂水区の神戸徳洲会病院では、糖尿病患者が適切な治療を受けられないまま死亡するといった事例が次々と明らかになっている。神戸市は2024年2月、管理体制の是正を求め、病院を運営する医療法人に対し医療法上の改善命令を出した。 神戸市の調査によると、同病院では主治医だった前院長が入院患者の3分の1にあたる50人超を受け持つなど、過剰な患者を抱え込んでおり、これが問題の一因となった可能性は高い。同院は昨年もカテーテル治療による患者死亡が多発しており、市が行政指導を行っている。同院は慢性的なオーバーワークの状態だったとみてよいだろう。 患者の命を預かる病院という組織において、慢性的に患者数が過剰になるというのは、本来、あってはならないことであり、死亡した患者の家族が「命を軽視している」と批判するのは当然といえる。 一方で、ほとんどの病院は公的医療保険制度のもとで運営されており、病院が適切にオペレーションできる仕組みを構築する責任は政府にもある。今回のケースは極端で、かつ悪質ではあるものの、過剰な患者を抱え、医療従事者が疲弊した状態となっているのは、多くの病院に共通した問題といえる。 このような状態になってしまう最大の理由は、日本の公的医療保険制度が限界に達しており、多数の患者を少数の医療従事者が担当しないと病院の経営が成り立たないからである。
事業として回っていない公的医療制度
説明するまでもなく、日本は国民皆保険制度となっており、医療保険の滞納さえなければ3割の自己負担でいつでも最先端の医療にアクセスできる。加えて高額療養費制度もあり、重篤な疾患の場合、限りなく無料に近い金額で治療を受けることが可能だ。ここまでサービスが充実している公的医療制度は世界的にも珍しく、誇れるものがほとんどなくなりつつある日本において、唯一、世界に胸を張れる制度と言ってよいかもしれない。 だが、この制度を維持するには莫大なコストがかかる。医療保険は加入者から保険料を徴収し、病院などに治療費が支払われる仕組みになっている。だが、国民から徴収する保険料と患者の自己負担だけでは全体の医療費の6割程度しかカバーできていない。残りの4割は赤字となっており、その分は公費で補填されているのが現実だ。 つまり、日本の公的医療制度はそもそも事業として回っていない状況にあるのだが、政府は公的保険制度を維持するため、医療費の削減という形で対処を行ってきた。その結果、日本の医療従事者はかなりの過重労働となっている。 日本の医療従事者1人が担当しなければならない患者数は諸外国の約3倍となっており、常にオーバーワークとなっている。特に従事者数としては圧倒的に数が多い看護師は激務が続いており、それに見合った十分な報酬を得ておらず、退職者が相次いでいる。 コロナ危機が発生した際、先進国の中で日本だけが、あっけなく医療崩壊を起こした理由もここにある。慢性的にオーバーワークだったところにコロナ危機が発生したので、現場は業務を遂行できなくなってしまったのだ。