セイント・ヴィンセントが語る孤高のアーティスト観、不条理だらけの人生を生きる理由
"死”は永遠の抱擁
―新作に寄せたテキストでも「私は生と死の間に立ち、その折り合いをつけようとしている」と述べていましたよね。もちろん、誰もがそのことに向き合おうとしているけど、人生にはより明確に意識させられる瞬間がある。 SV:まったくその通り。私はどのレコードでも自分の人生、そこで起きていることについて書いてきた。わかるでしょう……(口ごもりながら)それがどんな感じか……自分の一部が誰かと共に去ったとき、もしくはどうにかして人生を乗り越えようとしているときのこと。人生は……人生って……どうしようもないことだらけ。本当にそう。だけど……大きく「だけど」――私たちにはその人生を生きる権利がある。 ―人生の暗い局面に陥っているとき、死が何らかの形で身近に迫っているとき、悲しみに暮れているとき、人生が手に負えないように思えるとき、アートはあなたを救ってくれるでしょうか? SV:それは私個人について? ―ええ。一方で、創作活動は自分の感情を整える手助けにもなるでしょう。他方で、他のアーティストの作品も暗闇を照らす光になりうるでしょうか? SV:両方ね。とりわけ、自分自身がクリエイティブになることは大きな助けになる。でも、特別なエネルギーやパワーを放つ、些細だけど根源的なものに触れるのも大切かな。例えば、私はスペシャルズやキング・タビーに心底ハマっていて。あのプロダクション全体の実体性にね。リー・スクラッチ・ペリーが音楽を作っているビデオを見ると触覚的な魅力がある。電気とカオスを活用することで、二度と繰り返されることのない儚い瞬間を捉えているというか。 ―カオスを受け入れ、感電させられる。人生の不可能性に立ち向かうための優れた戦略ですね。 SV:それは、プロデューサーでもある私にとって本当に刺激的だった。カオスに身を委ねなければならないんだから。それにすべては、回路を流れる電気から始まるべきだから。自分が生きているように感じられ、何かしらの形で燃えているようでなければならない。 ―最近、モビー・グレープのドラマー、ドン・スティーヴンソンに取材したんです。若くして亡くなった彼のバンドメイト、スキップ・スペンス(1999年に肺がんで死去)について触れたとき、「灰の中にも美しさがある」というようなことを言ってました。『All Born Screaming』を初めて聴いたとき、その言葉がふと頭をよぎったんです。 SV:へえ、それは実に美しいイメージね。 ―ボンド映画のテーマ曲みたいな「Violent Times」で、実際に灰について歌っていますよね。"内側にあるすべての爆弾/隠しているすべてのワイヤー/死と戦う無駄な夜々/ポンペイの灰のなかで、永遠の抱擁の姿で発見された恋人たちのとき”と。 SV:そう、それは私にとって非常にロマンチックなアイデアだった。彼らは灰になったのではない。彼らは永遠に抱き合っているの。 ―どういうわけか、"死”という暗いキャンバスは、その前に訪れるすべてのものを、より強烈で意味深く感じさせる。おそらくそれこそが、このテーマを扱った芸術作品にとりわけ魅了させられる理由なんでしょうね。少なくとも私にとってはそう。『All Born Screaming』はあなたの最高傑作だと思います。 SV:ありがとう! いつだって作ったばかりのアルバムが一番好きで、そう感じるのはおかしいかもしれないけど、私も本当にそう思う。リリース直後の高揚感が落ち着いても、それでもそう思えるような気がしている。 ―好きなアーティストの作品群と向き合ったとき、明るい作品より暗い作品に惹かれることもありますか? SV:もちろん。私が好きなアーティストについて尊敬しているのは、作風が多彩だったり、時折リスクを冒したり、ムードやサウンドを変えたりするような姿勢だったりするから。そうでなければ「アーティスト」とは呼べないでしょう。まあ、あなたの言う通りね。ボウイの『Let’s Dance』も好きだけど、『Blackstar』を聴く方がずっといい。