【夏の甲子園】7年前に感じた大阪桐蔭の「声」の強さ 敗れた興南の元ソフトバンク・島袋洋奨投手コーチが語った強力打線対策とは?
【状況判断に優れた"野球頭がいい"集団】 大阪桐蔭の選手たちの声を聞くと、技術やセンスだけで勝ち上がっているわけではないことがわかった。 たとえば、ワンアウト3塁のピンチの場面。 「ゴロゴー、ゴロゴー」(ゴロを打ったら三塁ランナーがホームに突っ込むぞ) 「ボールいらん、ボールいらん」(バッターのタイミングが合ってないから勝負しろ) サインを出すキャッチャー、守備位置にいる内野手だけでなく、ベンチにいる控え選手からもそんな声が飛ぶ。その合間に「ナイスボール」「勝負、勝負!」という激励も飛び交う。 逆に、チャンスで相手バッテリーのミス(ワイルドピッチやパスボール)が出た時は、「また(ミスが)あるよ」「次も(ワンバウンドが)くるぞ」と選手は口々に言う。そうすることによって、ランナーは次にミスが起こった時にすぐ反応ができるし、相手は「またミスをしたら......」と考えてしまう。 選手たちが勝手なことを言えば当事者(守備の時は守っている選手、攻撃時ならバッターとランナー)は混乱するおそれがあるが、その指示は見事なまでに統一されていて、ブレがない。彼らの声を聞けば、状況判断に優れた"野球頭のいい"集団だということがよくわかる。大げさに言えば、監督が何人もいるような状態だ。 もちろん、フェアグラウンドにいる選手だけでなく、ベンチにいる全員が1球ごとに集中する必要がある。場面ごとに相手がどんな仕掛けをするのか、注意すべきことは何なのかを考えなければならない。そのうえで、相手が嫌がる(プレッシャーを感じる)言葉を選ぶ。そんなチームは一朝一夕には、出来上がらない。 あれから7年。1年ごとに選手が入れ替わるなかで、チームの完成度は上がっているように見える。
【大阪桐蔭は守りから試合のリズムを作れるチーム】 興南戦で甲子園通算70勝を挙げた大阪桐蔭の西谷浩一監督は、こう試合を振り返った。 「今日は守り勝ち。バッテリーを含めて、守りからリズムを作れていたと思います。相手は足も絡めてくるので、そんな簡単には抑えられないと意識していました。シングルヒットはOK、9イニングでしっかりとやろう、と」 全国でトップクラスの投手を何人も揃え、走力も備えた強打者を並べる打線は、他校にとって脅威だろう。彼らを倒す方法など、簡単には見つからない。 興南のエース・田崎は、大阪桐蔭打線と対峙して何を思ったのか。沖縄大会で最速149キロを記録したサウスポーは言う。 「フォアボールや、ちょっとの投げミスがすぐに失点につながる怖さを知りました。沖縄大会とは打球の速さが全然違いました。特に印象に残っているのが、代打でレフト前ヒットを打たれたラマル(・ギービン・ラタナヤケ)選手。おそらく打ち損じだと思うんですけど、それでも、ものすごく打球が速くて......」 しかし、もちろん抑えられる可能性はある。 「変化球をアウトコース低めに集めることができて、バッターの胸元にストレートを投げられるコントロールが自分にあれば、抑えられなくはないのかなと思いました」(島袋コーチ) こう語るのは、田崎を指導した島袋洋奨投手コーチ。2010年に興南を春夏連覇に導いたエースで、のちに中央大に進み、2014年のドラフト5位で福岡ソフトバンクホークスに入団(2019年に現役引退)したOBだ。 大阪桐蔭を抑えるためにはどうすればいいのか? 島袋コーチは言う。 「大阪桐蔭打線はスイングが鋭いし、バスターでもバットを引く動作が速い。沖縄では、これほどのレベルの相手と戦える機会はありません。 今日の田崎はボールが先行して、自分優位のピッチングができなかった。でも、ストライクで追い込めた時には抑えることができた。 甲子園常連校で実績のある高校なので、甘い球は打たれます。もちろん、相手の圧力を感じると思いますが、とにかくストライク先行で早めに追い込むことが大事ですね」 8月14日の第2試合で大阪桐蔭と対戦するのは、1回戦で強豪の明豊(大分)を下し、甲子園初勝利を挙げた小松大谷(石川)。石川大会決勝で、春のセンバツでベスト4に入った星稜を相手に完封勝ちしたエースの西川大智、明豊戦で3回無失点の好投を見せた竹本陽は、どんなピッチングを見せるのか。
元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro