【対談】橋本薫(Helsinki Lambda Club)✕堀江博久「道を敷くというより、外れないように支えてくれる感じがすごくありました」
――曲の仕上がりとしてはヘルシンキ史上でも有数のポップソングになりましたが、そのあたりは制作を進めていく中で見えた部分だったんですか? 堀江 いや、最初からポップなモノを作るというのが共通して見えてたから、そこから実験的なことをしようというのはなかったような。 橋本 そうでしたね。 堀江 だから、自分はポップなモノを作るのはすごく好きだし、伝える要素はいっぱい持ってるんで、それを徹底的に伝えた、っていう。ただ、最終的にこうした方がいい、というのはあんまり言ってなくて。 橋本 基本的には道を敷くというより、外れないように支えてくれる感じがすごくありましたね。 ――プロデュースと言うと、線を引いて「ここを歩いてください」っていうスタイルなこともありますよね。 堀江 ほとんどがそうだよね。でも、10年ぐらいバンドをやってるとバンドサウンドも確立できてるから、そこまで足りないモノもあんまりないし。 橋本 その支えてくれる中、80年代のこういうニュアンスを出したい、みたいな気持ちをすぐに汲み取ってくれて、そうしたいならベースはこう弾くし、ドラムの打ち込みも本物のRoland TR-909を使った方がいいよね、ってパッと提示してくれたのはありがたかったですし、なるほどな、って思うことの連続でしたよ。 堀江 でも、言ったモノはだいたい吸収が早かったし。大変だったのは稲葉(航大)のベースぐらいじゃない? 橋本 そうですね。 堀江 ヘルシンキのバンドサウンドって、意外とファンキーな感じがある。今回の「たまに君のことを思い出してしまうよな」はひとつ制限があって、八分でベースを最後まで刻む、っていう。80年代だと最初から最後までずっとタイトに刻んで終わる曲が結構あって、The Policeの「見つめていたい」もそうだし、大澤誉志幸さんの「そして僕は途方に暮れる」もそうだよね。ストイックに最初から最後まで(八分)。で、そのシンプルな中にも踊れる弾き方とか、アタックの強さだったり、表現がいろいろあって。ただストイックにいけばいいわけでもないし。そのさじ加減や塩梅が難しいんだけど、それを最初に提案したよね。加えて、最初の20秒がカッコよければ後は何でもいいよ、とも伝えて(笑)。 橋本 そうでしたね(笑)。 堀江 ストイックにやろうとすると、最初は固くなるんだよね。でも、名曲を聴いていると最初の20秒の中に感動させる音があったりするし。 橋本 あと、手法的な部分で印象的だったのは、ギターがブリッジミュートでめちゃめちゃ歪んだ音で刻むとそのベースが活きてくる、っていう。そういう手法があるんだ、って驚きました。 ――歌詞の部分では何かアドバイスをされたりもしたんですか? 堀江 どっちがいいかな、というときに読んで分かりやすい方が、メロディから言葉がちゃんと聴こえる方がいい、とは伝えましたね。言いたいことがいっぱいあるとメロディが追いつかなくなるときもあるんだけど、この曲はちゃんとメロディと言葉が最初からリンクはしてたから、あんまり言うこともなかったけど。 橋本 今まで歌詞を誰かに相談するってことはなかったんですけど、いくつかのパターンを提案したとき、こういう理由でこっちの方がいいんじゃないか、と言ってもらったりもして。それが腑に落ちたりもして、今後の歌詞の書き方に迷いが減りそうな気がしてますね。 堀江 歌詞はね、言いたいことと実際に選ぶ言葉がまた違うからね。 ――しかしながら、「たまに君のことを思い出してしまうよな」というタイトルは印象的ですよね。 堀江 あぁ、そうですよね。 ――以前、ヘルシンキが発表した「This is a pen.」の歌詞に<たまに君のことを思い出してしまうよな>と出てきますけど、関係はあるんですか? 橋本 そこをめちゃめちゃ意識したわけじゃないですけど、昔から聴いてくれているファンがちょっとクスッとしてくれたら、みたいなニュアンスではあって。あと、音楽的なガワは変わっていったりしても、その中身の部分、言いたいことはまだ変わってないところもあるよな、っていう意味でも同じ言葉を使ってみるのもいいかもな、って思ったんですよね。 ――ちなみに、制作を通して、ヘルシンキというバンドに対してどういった印象を持たれましたか? 堀江 そうだね......割とはっきりしていない感じのところを大事にしてるというか。 橋本 なるほど、なるほど。 堀江 今、サウンドがはっきりしてるモノが多かったりとかするじゃない。正解を求めたがるサウンドだったりとか、言葉のメッセージも強すぎるところもあったりして。時代的なところもあるんだろうけど、もっとボンヤリしてることがあってもいいというか。その解釈を自分で全部提示するんじゃなくて、聴いた人が勝手に考えられるゆとりみたいなモノがちょっとあってもいいんじゃないか、と自分も感じてて。そうやって作ると、緩いとかダラダラしてるとか、ネガティブな感じの表現をされちゃうんだけど。 橋本 そうですよね(笑)。 堀江 でも、そういうのを大事にしていきたいなと今でも自分は思ってて、ヘルシンキにもそういう部分を感じたから、そこは大事にした方がいいかな、って。いろんな捉え方や想像ができるように。 橋本 曲を作りながら、自分でもいろんなことを探している途中というか、そういう感覚が強いんで、その印象はまったく間違ってないですね。 ――今って、パキッとしたモノだったり、白黒はっきりしたことを求められることも多かったりするじゃないですか。そこは自分の肌に合わないような? 橋本 結局、そういうことになりますね。感情にしても何にしても、そのグラデーションの途中の部分を表現したい、みたいな気持ちが割とあったりするんで。ピンポイントじゃなくて、そこへ近づこうとしている感覚がもしかしたら強いのかもしれないです。今のお話を聞いて、そう感じましたね。 堀江 音だったり、言葉だったり、向かっていく気持ちって絶対に伝わると思うんですよ。そこを自分も大事にしていきたいと思っているから、ヘルシンキのようなバンドでよかったな、って思いながら手掛けてましたね。 ――この新作はそういったスタンスが強く出てますよね。はっきり答えを出さなくていいんじゃないか、みたいなメッセージを感じます。 橋本 あぁ、そうですね。 ――堀江さんは「たまに君のことを思い出してしまうよな」以外の曲もお聴きになられました? 堀江 CDでも改めて聴いて、すごくよかったですね。いろいろ幅も広くて。 橋本 ホントにそうなんですよね(笑)。 堀江 (収録した曲の)年代は結構経ってる? ここ1年ぐらいの曲? 橋本 割と最近の曲ばかりですね。堀江さんとやった「たまに君のことを思い出してしまうよな」がいちばん古かったりもして。この曲はプロデューサーさんを入れて丁寧に作りたいよね、ということでちょっと寝かせてたのもあり。 堀江 最後の曲(「My Alien」)とのギャップもすごくあるけど、曲順はどうやって決めたの? 橋本 曲順は迷いに迷って......もう、どうしたって、(曲調が)バラバラなのは変わらないし(笑)。 堀江 収録する曲数自体が少ないからね(笑)。でも、もう1回聴きたくなる感じがあって。 橋本 そういった中でも流れの聴きやすさは意識しましたね。あと、最後は「My Alien」で終わりたいな、とか。3曲目の「Yellow」がちょっとダークな雰囲気だから、その後に「たまに君のことを思い出してしまうよな」みたいなパッと開けた明るい曲がきたら際立ちそうだな、とか。そういうことを考えながら悩んでいました。 ――バラエティに富んだ新作ですけど、当初は統一感のある作品にしようと考えていたんですよね。 橋本 そうなんですよ(笑)。 堀江 ハハハハ(笑)。 橋本 でも、毎回そうにはならなくて。 堀江 はっきりしていないからね(笑)。 橋本 結局、そこに繋がりますね(笑)。
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