令和版『うる星やつら』は純度100%の高橋留美子作品だ 過去作から引き継いだ魅力とは
もっと“アニメ的”だった昭和版『うる星やつら』の演出
昭和版のアニメはもっと“アニメ的”だった。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の押井守監督がチーフディレクターを務めていたことは広く知られているが、全体にコメディタッチで時にドラマティックなところもあってと、1本の映像作品として見せようとする演出がなされていた。 令和版のエピソード16「激闘、父子鷹!!/セーラー服よ、こんにちは!!」を例にとると、内容が同じ昭和版の第63話「竜之介登場!海が好きっ!」では、藤波竜之介と父親とのバトルが『あしたのジョー』のアニメのような劇画モードになったり、竜之介の父がセーラー服を振り回して竜之介が奪おうとするシーンが長めに描かれていたりと、漫画にはないアレンジが加えられている。令和版は漫画のように切り替えが早くてテンポが良い。 昭和版は、というより押井版は不条理を極めたようなシュールな展開で、観ている人を戸惑わせながらも引きつるところもあった。あたるの母親が謎の冒険を繰り広げる第78話「みじめ!愛とさすらいの母!?」が代表例で、これと1984年2月11日の公開から40年が経つ劇場版第2作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』も含めて、過去にない作風を持ったアニメ作家として押井守の名は高まった。 そうしたオリジナリティは、令和版『うる星やつら』にはほとんどない。高橋留美子らしさとは何かを極めたような雰囲気で、『うる星やつら』に限らず高橋留美子の漫画作品を読んできた人の目に馴染む。ストーリーも原作を踏襲していて納得感が高い。その意味で純度100%の高橋留美子アニメだと言える。 一方で、声に関しては、平野文が演じたラムを上坂すみれが同じトーンと口調で演じて、昭和版に慣れた人に違和感を覚えさせない。古川登志夫が演じた諸星あたるも、神谷浩史が軽薄で惚れっぽい様をしっかりと踏襲している。そして、面堂終太郎。昭和版ではイケメンキャラを演じて当代一だった神谷明が担当して、ギャグ演技という幅を持つきっかけをつくったが、令和版でも当代一の“イケメンボイスアクター”と言える宮野真守が、面堂終太郎の二面性を完璧に演じている。こちらの令和版が登場する『キン肉マン』の新作アニメで、昭和版の神谷明から主役のキン肉マンを受け継ぐのも納得だ。 原作と高橋留美子への徹底的なリスペクトがあるからこそ、令和版『うる星やつら』は高橋留美子作品を平成以降のアニメで見知ったような人の中にするすると入ってくる。それはそれで嬉しいアニメ化だが、それでも期待したくなるのは『うる星やつら』という作品世界を広げるような新しいエピソードだ。 劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』が興行収入138億円の大ヒット作となり、『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』も大ヒット公開中という状況が、原作にはないオリジナル作品でもファンは楽しむ感性を持っていることを裏付けている。令和版『うる星やつら』からも同様にオリジナルストーリーの劇場版が作られ、そこから『ビューティフル・ドリーマー』の神話を塗り替えるような傑作が生まれてくれば面白いのだが。
タニグチリウイチ