零下2度の銀世界 「口紙」をかみしめた白装束の女たちの願いは… 「この地域に伝わる、大切な行事」
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】女性たちが担うようになった伝統行事〝裸参り〟 込められた願いは…
悪霊の侵入防ぐ「口紙」かみしめ
気温零下2度。 雪化粧をした岩手山の麓に広がる一面の銀世界を、真っ白な装束に身を包んだ女性たちの行列がゆっくりと進んでいく。 神様を迎えるための目印とされる長さ約3メートルの験竿(けんざお)を掲げ、口元には悪霊の侵入を防ぐとされる「口紙」をかみしめている。 岩手県八幡平市の1月に行われる「平笠裸参り」。
戦時中、兵隊にとられた男たちに代わり
東北地方で広く伝わる「裸参り」は元来、男たちの行事だ。 寒中で難行苦行し、神仏に無病息災などを祈願する。 平笠地区では1710年代、岩手山の噴火が鎮まるよう願ったのが始まりとされる。 しかし、平笠地区ではそれらを女たちが担う。 戦時中、兵隊に取られた男たちに代わって、銃後の女性たちが裸ではなく、白装束をまとって夫や息子の無事を祈ったことから、戦後も女性たちの「祭り」として地域に引き継がれてきたからだ。
戦や争いを起こすのは「いつの時代も…」
雪にすべてが吸収されたような無音の世界を、純白の女たちは鈴を鳴らしながら歩む。 「この地域に伝わる大切な行事です」 地域で暮らす80歳の無職女性は行列を眺めながら目を細めて言う。 「平和を願う。戦や争いを起こすのはいつの時代も男たち。その傍らで女たちはいつも、甘いものと、平和を願うの」 (2023年1月取材) <三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した>