「記者アンカー」の栄枯盛衰 変わる米国のニュース報道番組
コメディ化が進むニュース番組
CATV・衛星放送やインターネットとの台頭は、地上波イブニングニュースの位置づけが相対的に下がっただけでなく、それ以外の報道番組そのものの在り方も大きく変わりつつある。 その一つが報道のソフト化である。「ザ・デイリーショー」(CATV・衛星局の「コメディセントラル」)などのコメディ・ニュースが人気を高めている。コメディのニュースとは、日常起こっている政治のニュースを茶化しながら面白おかしく伝えるのが中心だが、インタビューのコーナーには現役の大物政治家や有力政治評論家などがこぞって登場し、「コメディ(エンターテーメント)」なのか、「本物のニュース(ハードニュース)」なのか、区別がつきにくくなっている。
例えば、「ザ・デイリーショー」の場合、バラク・オバマ前大統領何度もゲストで登場したほか、現役の閣僚や各国の要人も多数登場している。アンカーであるコメディアンとの冗談交じりのやり取りは、それ自身がテレビ、新聞などの「本物のニュース(ハードニュース)」に頻繁に取り上げられている。 前の「ザ・デイリーショー」のアンカーだった、コメディアンのジョン・スチューアートは「クロンカイト以後、最も信頼おけるアンカーは誰か」という2009年の「タイム」誌の調査で1位となっている。ゲストに対しては、趣味などの日常生活や笑い飛ばせるような失敗については気楽にインタビューが展開していくが、自分の業績をPRしようとする政治家に対しては、スチュアートは比較的厳しかった。再選を目指す2012年大統領選挙直前に現職大統領としてオバマ大統領が出演した回では、にやけながら共和党候補を非難したオバマに対して、スチュアートは見透かしたように全くこびずに厳しい質問を続けたのが印象的だった。 「嘘」と「本物」の区別はほとんど意味をなさない状況になっている。コメディ・ニュースの人気の高さに注目した政治学者が実証的な研究を行い、特に若者の政治参加を高める効果があるかどうかについて、学術的な論争にすらなってきた。 スチュアートは16年間アンカーを務め、2015年に番組を去ったが、スチュアート時代の「ザ・デイリーショー」の「記者」だったコメディアン何人かは、それぞれ冠番組を持ち、コメディ・ニュースはさらに広がっている。