部門の壁を越えた議論が活発化し、社員のやる気がアップする「秘策」とは?
この潜在的市場への参入を、カスタマージャーニーを使って考えてみよう。 まず中小企業のセキュリティ担当者が、セキュリティについて一体どのような動線をたどり検討するかを考える。セキュリティという言葉から、おそらく担当者はいろいろなことを想起するだろう。 入館ゲート、ハッキング、従業員による情報漏洩、メール誤発信、ウィルス、災害などに対する保険など。様々なことを担当者の目線で考えなければならない。ただでさえ人手不足でリソースが少ないにもかかわらず、セキュリティに関連する領域は広いのだ。 こうして想定される顧客像と関心事をもとに、「興味関心、情報収集、調査、比較検討、購買、使用、共有」という、顧客の辿るプロセスについて、企業内で部門を横断して議論をする(図表8)。 想定した顧客である中小企業の総務担当者が、一体どのような情報を探索するのか、どのような言葉で検索するのか、どのようなメディアを使って調べるのか、何を重要な基準として、情報を精査していくのか、どのような情報があると嬉しいのか……、と検討を重ねる。 ● カスタマージャーニーは「仮説」 見直しが必要で完成はない 顧客の立場で検討をしていくと、様々なことが見えてくるだろう。 例えば、顧客の悩みを解決するために必要なのは個別のサービスではなく、セキュリティに対するワンストップソリューション(一つですべての問題解決ができる総合的な仕組み)かもしれない。ただでさえリソース不足の中小企業において、少ない人数ですべてを検討しなければならないのだ。 結果的に手が回らず、セキュリティに関連する様々なことに統合的に相談に乗ってくれる存在が必要になっているのかもしれない。
顧客はウェブサイトで検索するのみならず、ウェビナー、IT情報誌、講演会など様々なタッチポイントに接触することも想定される。 すると、比較サイトや雑誌などの取材に応じ、自社のよさを正しく理解してもらうことも必要だと見えてくる。想定されるタッチポイントで、どのような接点とメッセージがあると、顧客の検討の候補となれるのか?それらも協議する必要がある。 自社の商品やサービスにいかに関心を持ってもらい、自社のサイトに来訪してもらうのか?その際、どのような情報を提供すれば、次のステップに進んでもらえるのか?時には顧客である総務担当者がこちらのコールセンターに電話をして、より深い質問をすることもあるだろう。 購買においては、ある程度の対象を絞り込んだ上で営業担当者にコンタクトをし、購買の意思決定をすると考えられる。 購入・使用後は、顧客向けのサポートサイト、コールセンターなどにサポートを求めるだろう。であればサービス提供者側は、どのようなサポートをすると顧客にとって理想的な体験となるのか、部門の壁を越えて事前に議論しておく必要がある。 このようにして全社的に策定したカスタマージャーニーは、あくまで仮説であり、常に見直しが必要となる。完成はない。常に部門横断で振り返り、見直し、組織全体での学びを繰り返さなければならない。 部門横断で見直しをする際には、共通のKPIを決め、組織としてどれだけ理想的な顧客体験を実現できているのかをモニタリングしていくとよい。 例えば広告に対するインプレッション数(表示回数)とそれに対するクリックの回数、さらにそこから如何に資料請求や購買に繋がっているかという数値、想定される顧客ニーズや顧客が抱える課題に関するセミナーやウェビナーの参加人数、関連する自社サイトの閲覧数、メールマガジンの開封率なども重要な指標になり得る。