「手書き」は腕も目も脳も動かす─あえてアナログにすることで人生が変わる「メモ&ノート術」
手を動かすことで記憶に残り、視覚化される
新年を迎え、生活習慣を改めようと思う読者諸兄も少なくないだろう。安価にして生活を抜本から改善できる方法がある。用意するのはペンとノートのみ。ノートがなければ去年のカレンダーを切ってメモ用紙でもつくればいい。 【えっ、ホント?】デジタルではなくアナログのノートを使うことの効果とは? 『もやもや、ごちゃごちゃがスッキリする 手書きノート&メモ術』(河出書房新社)著者の奥野宣之氏はこう説く。 「今年こそダイエットを始めようと思うならノートに一日に食べたものや体重を記録することから始めてみてはいかがか。スマホのメモや写真ではなく、あえてアナログにしましょう。手書きは手を動かすだけでなく腕も目も脳も動かします。下手な字でも手書きにすることで記憶に残りやすい。食べたものを撮影するだけだとつい流してしまう。 私もスケジュール管理でスマホのToDoアプリを使いますが、よく失念してます。面倒でもノートに書いておけば手を動かして書くことで記憶に残り、視覚化され、ダイエットの改善ポイントが自ずと浮かびあがるものです」 奥野さんは22歳からノートをつけ始め、現在264冊目となっている。食べたご飯の量まで詳細に記すことで、自分がどれぐらい食べれば元気に活動でき、これ以上食べると眠くなる、とメモを続けたことで自身の体調が数値化できるようになるという。 「最初から私みたいに詳細に綴る必要はなく、簡単なメモだけでも書き残してみましょう。例えば、自分が週に何回ラーメンを食べたのかわかるようになります。太った要因が『夜にラーメン食べ過ぎた』となるので、では明日は控えよう、蕎麦に代えよう、と切り替えられます。 食べた店の割り箸の袋やレシートをノートに貼っておくだけでもいい。その横に『キツネ蕎麦 美味しかった 接客もいい』などと何でもいいので書いておけば唯一無二のものとなり確実に記憶に残る。これを続けていくことでつらいダイエットも明るく取り組めます」 手書きにはいくつもの利点がある。ひとつはすでに触れたように自己管理・自己分析につながることだ。何を食べたのか、どれくらい寝たのか。簡単な記述でも続けていれば、「なんか今日は体調がいいぞ」と感じた際、ノートを振り返ってみて自分なりの法則に気がつくことにもつながるだろう。 「酒量はこれくらいまでなら翌日に響かない、と体感的にわかっているでしょうが、メモに残せばより克明に自分の身体を理解できます。何時間眠ると仕事がはかどる、何時間以下では翌日が辛い、など自分の身体の特徴が数値化されると健康な生活を心がけるようにもなります」 ◆SNSでなく「自分だけの空間」をつくる 趣味にも使える。旅先で名所・旧跡を巡り、旅館の豪華な夕食の写真をスマホなどで撮ることはよくあるだろう。さらに加えてノートへと感想を綴ったり、地元のお菓子の包紙や使用した乗り物の半券などを貼れば思い出はより深まる。 「スマホで素人が撮った写真はありがちで、臨場感に欠けます。銘菓の包紙やロープウェイの半券は言ってしまえばただのゴミですが、ノートに貼ることで『白あんが美味しかった』『雪が山頂に降っていて綺麗だった』と旅の思い出を振り返れ、臨場感が増してくる。ネットで何だって見られる時代となりましたが、旅館で食べた箸の袋や銘菓の包み紙はアップされていないでしょう。 それらがノートにあれば、立体的に思い出せて、豊かな旅をしたな、と思い返せます。実際は行ってみたらインバウンドの観光客で混雑ばかりだったとしても、楽しかった思い出を抽出しておけば、良い旅をした、と振り返れます。ノートが雨に濡れて字がかすんでも、それすら豊かな気持ちで読み返せます」 昨今、SNS流行りで誰とどこで何を食べたかをステイタスのように競い合う風潮がある。そんな風潮から一歩引いて、ノートなら自分だけの空間で楽しみを見いだせる。 「SNSで他人の目があると思えば、食べたくもないものを無理して食べてしまうもの。ペースが乱され、楽しくなくなり、いずれ止めてしまう。閉ざされた自分だけの空間であれば、『富士そばでカレー蕎麦』や『すき家でネギトロ丼』でも恥ずかしくない。誰にも見せないので気取らずに淡々と記せます。振り返って、『俺、立ち食い蕎麦屋に行き過ぎ』とこっそり笑っていればいいだけです。ノートは閉鎖されているので他人と比べられるストレスもありません」 ◆書くことで自分を「客観視」 肉筆で記すことで心の整理にもつながる。胸の裡でごちゃごちゃと悩んでいたことが記してみることで案外、整理されるものだ。悩みをノートに綴ることで自分で解決できる悩みなのか、そうではないか、を客観視できる効用がある。 「頭の中だけで処理をしようとすると恐怖心や不安が増大され、勝手に過大評価して暴走してしまいがち。でも書くことでまずはブレーキとなり、落ち着きます。冷静に分析できるようになり、悩みのブレークスルーが見えたりすることもあります。自分が頑張ってもどうにもならないものは、これはどうにもならない、悩むのはやめよう、と第三者として見られるようにもなります」 ノートとペンはどこでも買え、300円でお釣りがくる。正月明け、体重計にのってみてハッとしたら手書きで日々の生活を振り返ることを始めてみるのはいかがか──。 奥野宣之(おくの・のぶゆき) 同志社大学文学部を卒業後、出版社や新聞社での勤務を経てフリーランスのライターに。独自の情報整理術を語った『情報は1冊のノートにまとめなさい』はシリーズ3冊で55万部を超える大ベストセラーとなる。 『もやもや、ごちゃごちゃがスッキリする 手書きノート&メモ術』(奥野宣之・著/河出書房新社) 取材・文:岩崎大輔
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