厚生労働省が入る中央合同庁舎第５号館外観＝東京都千代田区

臓器移植が進んでいない現状を受け、厚生労働省は、医療施設間の連携体制の強化や臓器斡旋機関の複数化を進めるほか、緊急性の高い患者への心臓移植を優先する案の検討に入った。斡旋機関や移植体制の見直しは平成9年の臓器移植法施行後初めて。円滑な臓器提供と移植につなげるため、23日に開催する臓器移植委員会などで議論を始める。 【グラフでみる】脳死での臓器移植提供は一部の医療施設に偏っている ■臓器提供、一部施設に集中 脳死者からの臓器提供を巡っては、国内にある高度な医療体制が整う大学付属病院などに限られ、対象は906施設（今年3月末現在）に上る。 ただ、提供の経験がある施設は297施設にとどまるほか、このうちの110施設は過去に1例しか経験がなく、提供は毎年60～70施設に集中しているのが実情だという。その要因としては、医療者の多くが脳死判定や臓器提供の手続きに不慣れな点が指摘されている。 一方、近年の臓器提供の約8割は、医師らから脳死者家族への選択肢の提示で実現。しかし、多くの家族に、その選択肢が示されていない可能性がある。 厚労省研究班の調査によると、回答があった612施設のうち、令和4年度に脳死の可能性がある患者は3017人いたが、家族に選択肢が示されたのは761人にとどまっていた。 ■情報共有や人材育成など取り組み こうした現状を打開しようと、厚労省は今年度から脳死の可能性がある患者の情報を施設間で早期に共有する仕組みを導入。臓器提供の経験が豊富な施設が地域の拠点となって、経験の少ない施設に助言や医師派遣などを行い支援する態勢を整える。 また、臓器移植委員会では、施設間の連携体制をさらに強化し、人材育成に取り組む議論を進めている。加えて、移植斡旋業務を一手に担う日本臓器移植ネットワーク（JOT）の負担軽減のため、ドナーに関わる業務の分離も検討している。 さらに、心臓移植を待つ間に死亡する患者を減らすため、心臓移植希望者の選択基準の見直しにも着手。待機期間に関わらず、緊急性の高い患者が優先的に移植を受けられる枠を新設する案などを議論する見通し。 ◆臓器移植

病気や事故によって臓器の機能が低下した人が他の人の臓器を移植し、健康を回復する医療。移植には、脳死後、心停止後、健康な人から移植する3つの方法がある。脳死後の場合のみ心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球の7種類すべての提供ができ、心臓は脳死後の移植でしかできない。